長年、日本のゲイカルチャー・シーンで活躍してきた田亀源五郎さん。田亀さんがライフワークのように取り組んでいるのが『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズの編纂作業だ。日本のゲイ雑誌に掲載されたイラストや写真などを集めたこの作品集の「Vol.1」が世に出たのが2003年のこと。そして「Vol.2」が発行された2006年から、じつに12年越しで、昨年末に「Vol.3」が完成した。「Vol.3」刊行でシリーズが完結した記念として、3月5日(火)〜17日(日)にはヴァニラ画廊で『日本のゲイ・エロティック・アート展』も開催されるという。田亀さんが多くの労力をさいて『日本のゲイ・エロティック・アート』シリーズを発刊してきたのはなぜなのか。エロティック・アートへのこだわり、日本のゲイ・カルチャー・シーンへの思いなどを聞いた。

(プロフィール)
マンガ家/ゲイ・エロティック・アーティスト。1964年生まれ。多摩美術大学卒業後、アートディレクターをしつつ、86年よりゲイ雑誌にマンガ、イラストレーション、小説などを発表。94年から専業作家となり、ゲイ雑誌『G-men』(ジープロジェクト)の企画・創刊にも協力(2006年に離脱)。同時に、日本の過去のゲイ・エロティック・アートの研究、およびその再評価活動を開始。2003年〜2018年にかけて『日本のゲイ・エロティック・アート』(Vol.1〜Vol.3/ポット出版)シリーズを編纂。また、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツなどのゲイ・メディアでも活動開始。『弟の夫』(双葉社アクションコミックス/全4巻)で第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第47回日本漫画家協会賞優秀賞、第30回アイズナー賞最優秀アジア作品賞を受賞。『銀の華』(ポット出版)、『嬲り者[復元完全版]』(ポット出版プラス)、エッセイ『ゲイ・カルチャーの未来へ』(Pヴァイン)など著作多数。また、『The Passion of Gengoroh Tagame』(PictureBox)、『Gunji』(Bruno Gmünder)など海外での著作も多い。●オフィシャルサイト:http://www.tagame.org

■自分にとってのオリジナルな表現がゲイ・エロティック・アートだった

──田亀さんは「ゲイ・エロティック・アーティスト」と名乗ってらっしゃって、この肩書きにはこだわりがあるそうですね。

田亀:愛するだけだったら私は、女の人も愛するし、犬猫も愛する。家族愛という言葉もあるし、人類愛という言葉もある。じゃあなぜ自分がゲイだと思ったのかっていうと、やっぱり男性に対して欲情したからっていうのが根本的にあります。だからそれは大事にしたいなと思ってます。

——創作活動でもエロティックな表現っていうのが最初からあったわけですね。それ以外の表現に行こうとはぜんぜん思わなかったのですか?

田亀:エロティックな表現は若い頃から好きでしたが、いろいろな表現を試してもみました。そんな中で、じゃあ私がエロ以外に描いたものがどういうものかっていうと、誰かの作品に刺激をされたものがほとんどだなと思ったんです。つまり内側から出てきたというよりは、見たものに憧れてそれを真似するとか、もしくは追いつけ追い越せというのをやるみたいな。

それで美術系の大学を出てからキャリア的にはデザイナー、イラストレーター、アートディレクターみたいな商業美術のほうにずっと関わっていたんですけども、私はクライアントの意向を尊重してその商品に合わせてそれが最大限かっこよくなるように仕上げるみたいなことがあまり得意ではなかった。私は、「自分」を出したい人だったなとつくづくわかって、これはとてもデザインには向いてないなっていうのがわかったんですよね。自己表現欲が強すぎる。

根本的に私は自分の世界を世の中に出したい人で、アート志向なんだなとつくづく思いました。でも、世の中にアートっていうのは山ほどあって、これが自分のオリジナルだと言えるのはなんだって考えたときにそれがエロティックな表現だったんですね。そういう発見があり、また、それが自分の正しい道という自信もあったので、ならば本気を出して取り組まなきゃって感じでしたね。

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