あるいは、親へカミングアウトしたときのこと。一生隠し通すことは不可能だろうから、それなら両親がまだ若いうちに、と考えた。その際、「親にカミングアウトした未来」と「親にカミングアウトしない未来」について、それぞれのメリットとデメリットを挙げ、検討した。自分を偽らなくて済むためだけに、親を傷つけてまでカミングアウトするのは“自己中”ではないか。でも、自分を偽って生き続けるのはつらくないだろうか。友人たちの意見も参考にし、思案の末、まずは20歳の時に母親にカミングアウトする。

 お母さんへのカミングアウトの場面は、本書のハイライトの一つで、ハンカチ片手に、ぜひ、じっくり読んでもらいたい。そしてその後、母と息子の関係がどのように変化していったのか。あるいは父へのカミングアウト、結婚式を経て「夫夫」となった二人とご両親との関係など、家族のストーリーは、本書を貫く重要な柱となっていて、そこにもたくさんのヒントや感動があふれている。

 そして、本書のもう一つの大きな柱は、七崎さんの恋愛遍歴。思春期のやるせない片思いや激しい嫉妬。上京してからの初体験や華麗な男性遍歴。タイトルに『僕が夫に出会うまで』とあるように、「夫」と出会うまでの七崎さんの恋愛遍歴が、時に赤裸々に、時にユーモラスに描かれている。読みどころの一つだろう。

 そしてそして、単なる恋愛話だけに終わらないのが七崎さんのすごいところで、「夫」と出会ってからの行動力――「パートナーシップ契約公正証書」の作成、婚姻届の提出(不受理)、築地本願寺での結婚式、「LGBTコミュニティ江戸川」を設立して「同性パートナーシップ証明制度」実現(第1号カップルに)――には本当に感服してしまう。

 「私は同性婚訴訟の原告ではないですが、同性婚(婚姻の平等)をできるだけ早く日本でも実現できるように、これからも積極的に活動していきたい」と語る言葉には強い決意がみなぎっていた。

2016年10月10日、七崎さん(右)と夫の亮介さんは、築地本願寺で結婚式を挙げた。撮影/前田賢吾(L-CLIP)

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