綿矢りさ『生のみ生のままで』〈上〉〈下〉(集英社)

 で、一方で最近、綿矢りささんが『生のみ生のままで』(集英社)を出して、綿矢りさ、やっぱりすごい人だと思った。良い小説だし、そこに書かれている生き生きとした生き様とか、あるいは、キャラクターの設定とかうまいと思うんです。でもやっぱり、本人が別にそういうものを書きたくないとは思うんですけど、実際にこの日本で生きているレズビアンというアイデンティティを持っている人たちではないな、と。そもそもこの小説を通して、アイデンティティとかレズビアンとかいう言葉は1回も出てこない。だから彼女が書いているのはレズビアン小説ではなくて、女性同士の恋愛の物語。純粋で、純度の高い、純愛物語だと思う。そこはやっぱり中山可穂さんの書き方と差が出てくると思うんですね。どちらもあっていいと思うんだけど、今の日本の文壇で、綿矢さんのような小説のほうが多い気がしてね。だからこそ、当事者が書く、現実に沿った、現実の人たちの生き方や生き様に沿った小説というのが必要で、当事者が書く意味はそこにあるんじゃないかな、と。
 私も「当事者しか書けないものがある」とは思っていて、一方で、「ノンケが頑張ってレズビアンのことを書こうとしてくれている」のって、私は諸手を挙げて喜んで受け入れている。その姿勢が真摯じゃないと、すぐに見分けがついてしまうから、全部の作品を喜んでいるわけではないけれど、でももっと作家さんに、レズビアンのことを書いてほしいと思う。そして、そういう実力のある理解者が、どう頑張っても書けないことこそを、当事者は書けるって思っているので、当事者のみんな、もっと頑張れって思っている。

【イベント紹介】
■9月13日(金)
『【講座】台湾カルチャーミーティング2019年第2回イベント
 「セクシュアル・マイノリティを書くということ:
   台湾文学と日本文学の対話
    ――陳雪さんと松浦理英子さんの台日作家対談」』
時間:18:30〜20:30(18:00開場)
場所:台北駐日経済文化代表処/台湾文化センター
   (港区虎ノ門1-1-12 虎ノ門ビル2階)
定員:80名(予約制)
料金:無料
ゲスト:陳雪(作家)、松浦理英子(作家)
司会:李琴峰(作家・日中翻訳家)
https://jp.taiwan.culture.tw/information_34_101125.html

■9月15日(日)
『講演・対談
  陳雪 × 李琴峰
  何が描かれるべきなのか?
  ――セクシュアル・マイノリティ文学再考』
時間:13:30〜18:00
場所:早稲田大学戸山キャンパス33号館第1会議室
料金:無料
出演:陳雪(作家)、李琴峰(作家)
主催:早稲田大学文学学術院中国語中国文学コース
https://www.waseda.jp/flas/hss/news/2019/09/02/5255/

■ティーヌ
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ノンセクシャル、アセクシャル など、セクシャル・マイノリティと呼ばれる人々が登場する小説を応援する会、読書サロンを主宰。月に1回、都内で読書会を開催。
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