国内でも今、このジャンルはとても熱いのです!『コンビニ人間』(文藝春秋)で芥川賞を受賞した村田沙耶香は、10人産んだら1人殺して良い制度ができた世界の『殺人出産』(講談社)、夫婦間のセックスが近親相姦として忌避される世界『消滅世界』(河出書房新社)などを描いてきました。田中兆子『徴産制』(新潮社)は、新型インフルエンザで9割の若い女性が病死した世界。男性が出産可能になる技術が開発され、日本国籍を有する満18歳以上31歳未満の全男性が最大二年間、性転換する「徴産制」が施行され、男たちは、女になって社会生活をする。「徴産制」の期間中に産んだ子供は自分が育てても良いし、国に納めても良い。男に支える女としての生活に幸せを見いだす人、性別適合手術の費用がタダになると喜んで参加する人、女衒にだまされて違法な売春をさせられる人など、さまざまな男たちを描いています。

田中兆子『徴産制』

ご紹介した作品たちを、とんでもない世界設定だなーと思いましたか? まあ、そうかもしれませんね。でもそこで思考停止せず、もうちょっと言語化してみてください。何がどんな風に、私たちの生きる社会と違いますか? 私たちの社会は、この作品の中に生きている人たちよりも、何が、どれくらい良い社会ですか? 食べ物の話や芸能人スキャンダルばかりを流すテレビ番組は、聖書の文言しか流さないラジオよりも良いものですか? 毎日4時間以上残業して疲れて、ゆっくりご飯を食べたりニュースを読んだりすることもできない生活は、読み書きを禁止されている世界よりも良い世界ですか? みんなと同じスーツを着て、枠からはみ出ないように、かつ他人よりも優れていることをアピールしなければいけない就職活動は、独裁国家の国王の寵愛を受けることよりも簡単ですか? 女性でも男性でも育休を取得したら給料が減ったり昇進できなくなる世界を、あとどれくらい放置したら、出産を強制される世界になると思いますか?

私たちは、これらについて友達と話すことができます。1カ月に1回だけでも、言葉という道具を、私たちの未来をよくするために使えたら、社会は大きく変わると、私は信じています。
 

■ティーヌ
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ノンセクシャル、アセクシャル など、セクシャル・マイノリティと呼ばれる人々が登場する小説を応援する会、読書サロンを主宰。月に1回、都内で読書会を開催。
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