3つ目として、アメリカから帰国し、2009年くらいに弊社の飲料事業に入ったのですが、当時は非常に景気が悪く、新規に社員を採用していなかった。でも、5年後を見れば、絶対に人が足らなくなるのは目に見えているわけです。そんな状況で、私たちのような小さな会社が競争を勝ち抜いていくためには何ができるのか。そこで考えたのが、人間に投資すること。ビジネスと言っても人間の営為なので、優秀な人材をしっかりと集めて教育をすることがすごく大事なわけです。戦後数十年が経ち、日本はある程度「飯が食える」ところまではきました。しかし、その先の「自己実現」に対する苦しみとか悩みが今後のテーマになるのではないか。つまり、いかに儲かっているか、ではなく、いかに目指すべき価値を追求しうるコミュニティか。そんな仮説を立て、採用を増やしていき、特徴を踏まえた形での教育を組み上げていきました。大学で教育が終わって社会人ということではなくて、大学からきちんと企業も受け継いで、人材の育成を進めながら目的に向かって仕事をしていく。その上で、最低限のお金は稼ごうねっていう形に事業を再建したいと考えたのです。

 そんな中で、TRPとのご縁をいただいて、日本のプライドパレードは、やっぱり国内企業がトップスポンサーにならなければいけないんじゃないか、と強く思い、まずは風穴を開けるところまではやろうということで、協賛させていただきました。

——『TRP』へのご協賛は、今年で6年目になりますが、この間の変化をどのようにみていますか?

 この10年で、弊社は400人の事業体から500人くらいの規模になったのですが、TRPへの協賛を通じて、約6割がアライ(ally:LGBTの課題に共に向き合う非当事者)という意識を持つようになり、15%が実際にTRPに参加しています。今年は執行役員が全員パレードを歩きます。この6年で積み上げてきたことで、こうした事例ができてくると、それはそれとして走るようになっていくわけです。TRPに参加した社員の感想で面白かったのは、意外に若者のほうが、自分は大丈夫だと思っていたけど実際にパレードを歩いてみると、自分の周りに何か薄いレイヤーみたいなものを感じてしまい、でも、歩いているうちにそういうものがだんだんと取れていく感覚があったというんです。要は、年齢や性別やセクシュアリティなどは関係ないというか、感想や受け取り方はみんな違うわけです。それはそれでよくて、大事なのは、外から見たり思ったりするのではなく、入ってきて実際に体感すること。それによって、みんなの中に新たな感情やアイディアが芽生え、それがダイバーシティにより寄り添ったかたちとなって、さまざまな場面で生かされてきていると思っています。

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