こんにちは。ティーヌです。
改めまして、「読書サロン」という、LGBTの登場する小説を応援する会の主宰です。毎春、東京のプライドウィークに、紀伊國屋書店で行っている『LGBTを知る100冊!』ブックフェアの選書を担当しています。2020年も開催しますのでどうぞよろしくお願いします。

みなさん、2019年はいかがでしたか? 個人的な読書体験的にはですね、数年前から続いている変化がどんどん拡大していて、とっても面白い作品が手に取りやすくなっています。漫画も、少年漫画や少女漫画で、「女装ゲイ以外のLGBTが登場している!」なーんて騒がなくてもいいぐらい、多様な登場人物も増えたと思います。

そして大事なのは、ここ数年急に方向転換したわけではないということ。書きたい! 書かなければ! 売りたい! 売らなければ! と頑張ってきた志高いたくさんの先輩方の苦労によって、平凡な人にも見えるようになってきたということ。この事実を忘れてはいけません。

さて、昨年紹介しました3つのキーワード、「PRIDE叢書」「台湾」「百合」。この3つが、今年もさらにパワーアップして大活躍しました!

昨年、サウザンブックスさんのPRIDE叢書から、マイク・ライトウッド『ぼくを燃やす炎』パトリシア・ポラッコ『ふたりママの家で』が刊行されました。

今年は、ジェローム・ポーレン『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』が刊行され、また、エミリー・M・ダンフォース『The Miseducation of Cameron Post(仮・ミスエデュケーション)』ジェシカ・ラブ『Julian Is a Mermaidの2冊の刊行も決定しています。

ジェローム・ポーレン著/北丸雄二訳『LGBTヒストリーブック』(サウザンブックス社)

ジェローム・ポーレン『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』は、タイトルの通り、歴史上の同性愛・両性愛者やトランスジェンダー、そして100年間の(主にアメリカの)LGBT運動の歴史を扱っています。差別は、そっとしておいても決してなくなりません。差別というのは、マイノリティーにとってはよく見えますが、マジョリティーにとってはその存在すら見えないものです。「ここに傷ついている人がいるよ」と、先人たちは、100年間叫び続けてきました。その先輩たちのかっこ良いこと!

翻訳者の北丸雄二さんも、PRIDE叢書・編集主幹の宇田川しいさんも、担当編集者も泣きながら作ったという、胸熱な作品。サウザンブックスさんも泣きながら売っているそうです。

合わせて読みたいのが、伏見憲明『新宿二丁目』(新潮新書)。日本だって歴史があるんです。市井の人たちの営みが、歴史なのです! 読まないわけにはいきません。私たちは今、そのバトンを引き継いでいるのです。

そして、昨年、『独り舞』(講談社)で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞した李琴峰さんが、『五つ数えれば三日月が』(文藝春秋)で、第161回芥川賞候補作にノミネートされたことも、記憶に新しいです。2019年は、『すばる』(201912月号)で新作「星月夜」も発表されています。TRP ONLINEで、秋に行ったインタビュー(前編後編)も。是非読んでくださいね。

李琴峰『五つ数えれば三日月が』(文藝春秋)

文学賞といえば!千葉雅也『デッドライン』(新潮社)が第41野間文芸新人賞を受賞し、第162回芥川賞候補作にノミネートされました! 千葉雅也さんといえば、ギャル男の哲学者として思想・哲学関連の書籍を執筆されてきた方です。今回、初の小説作品です。大学院生の主人公が、研究を志す者として、ゲイとして、人間として、生き方をどんなに迷っていても、修論提出期限日は容赦なく迫って、そして来る! 受賞作品の発表は1月15日です。お楽しみに。

千葉雅也『デッドライン』(新潮社)

『SFマガジン』2019年2月号「百合特集」(早川書房)

さらにさらに、早川書房『SFマガジン』20192月号「百合特集」は、2018年の1225日の発売日前に増刷、そして3刷もされたという、大事件になりました。

その後も、『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』伴名練『なめらかな世界と、その敵』など早川書房からSF百合小説が次々に発行され、他社の漫画でも、書評でも、文学フリマ(テキスト中心の同人誌即売会)でも、「百合SF」というキーワードが散見されました。SFではありませんが、綿矢りさ『生のみ生のままで』(集英社)も社会人百合として話題になりました! 昨年に引き続き、今一番追いかけるべきジャンルは「百合」、と言うことで間違いないと思います。

『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』(早川書房)

伴名練『なめらかな世界と、その敵』(早川書房)

綿矢りさ『生のみ生のままで』(集英社)

 

そしてもう一つ元気のあるジャンルが、「フェミニズム」。世の中が不況な時は古典が売れる、なんていう話も聞いたことがありますが、「フェミニズム」の再評価が「百合」の発展・拡張と同時期に起こっていることは、「フェミニズム」にとっても「百合」にとっても素晴らしいことだと確信しています。もっと言えば、同時に発展し相互作用をしなければいけない、と個人的には思っています。

「フェミニズム」は女の解放だけではありません。男も、セクシュアルマイノリティも、ジェンダーにつきまとう「○○らしさ」から解放されようという動きです。西口想『なぜオフィスでラブなのか』(堀之内出版)は、職場での恋愛に関する扱いについて徹底解析しています。なぜ! 会社が! 個人の恋愛に介入してくるのか(怒)! 多くのLGBT当事者たちも困って呆れ果てていることとと思います。そしてこれを読めば、今はまだ「女性として生きる苦しみ」にイマイチピンときていない方も、いろんなフェミニズム小説を楽しめるようになると思います。

西口想『なぜオフィスでラブなのか』(堀之内出版)

2020年も、古典をよく読み、まだ書かれていないことを貪欲に求める姿勢で生きましょう! それでは皆さま、良いお年を。

 

 

■ティーヌ
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ノンセクシャル、アセクシャル など、セクシャル・マイノリティと呼ばれる人々が登場する小説を応援する会、読書サロンを主宰。月に1回、都内で読書会を開催。

■2019年に刊行された主なLGBTQ関連書籍

  • 『はじめて学ぶLGBT 基礎からトレンドまで』
     石田仁(著)/ナツメ社
  • 『個「性」ってなんだろう?:LGBTの本』
     中塚幹也(監修)/あかね書房
  • 『フランスの同性婚と親子関係』
      イレーヌ・テリー(著)、石田久仁子、井上たか子(約)/明石書店
  • 『僕らの色彩』
      田亀源五郎/双葉社(アクションコミックス)
  • 『ペニスカッター』
     和田耕治、深町公美子(著)/方丈社
  • 12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』
     モカ、高野真吾(著)/光文社(光文社新書)
  • 『ナタンと呼んでーー少女の身体で生まれた少年』
     カトリーヌ・カストロ(原作)、カンタン・ズゥティオン(作画)、原正人(訳)/花伝社
  • 『マチルダとふたりのパパ』
     メル・エリオット(著)、三辺律子(訳)/岩崎書店
  • 『虹色ジャーニー』
     浅沼智也(著)/文芸社
  • 『ロシアの「LGBT」』
     安野直(著)/群像社(ユーラシア文庫)
  • 『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』
     ジュリー・ソンドラ・デッカー(著)、上田勢子(訳)/明石書店
  • 僕が夫に出会うまで』
     七崎良輔(著)/文藝春秋
  • 『新宿二丁目』
     伏見憲明(著)/新潮社(新潮新書)
  • LGBTQ+の児童・生徒・学生への支援:教育現場をセーフ・ゾーンにするために』
     葛西真記子(著)/誠信書房
  • 30歳で「性別が、ない!」と判明した俺がアラフィフになってわかったこと。』
     新井祥(著)/ぶんか社
  • 『日本と世界のLGBTの現状と課題』
     LGBT法連合会(編)/かもがわ出版
  • 『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた』
     佐藤文香(監修)/明石書店
  • 『はじめよう! SOGIハラのない学校・職場づくり:性の多様性に関するいじめ・ハラスメントをなくすために』
    「なくそう! SOGIハラ」実行委員会(編)
  • 『トランスジェンダーの私がボクサーになるまで』
    トーマス・ページ・マクビー(著)、小林玲子(訳)/毎日新聞出版
  • 『五つ数えれば三日月が』
     李琴峰(著)/文藝春秋
  • 『ゲイ風俗のもちぎさん』
     もちぎ(著)/KADOKAWA
  • LGBTIの雇用と労働――当事者の困難とその解決方法を考える』
     三成美保(編著)/晃光書房
  • 『うちの息子はたぶんゲイ』
     おくら(著)/スクウェア・エニックス(ガンガンコミックス)
  • 『ノーマル・ハート』
     ラリー・クレイマー(著)、北丸雄二(訳)/大都社
  • 『ふたりパパ ゲイカップル、代理母出産の旅に出る』
     みっつん(著)/現代書館
  • 『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』
     塚本堅一(著)/KKベストセラーズ
  • 『男娼と男色の歴史』
     安藤優一郎(監修)/カンゼン
  • 『性別違和・性別不合へ』
     針間克巳(著)/緑風出版
  • 『パパは女子高生だった』
     前田良(著)/明石書店
  • LGBTをめぐる法と社会』
    谷口洋幸(編著)/日本加除出版
  • 『身体を引き受ける:トランスジェンダーと物質性のレトリック』
    ゲイル・サラモン(著)、藤高和輝(訳)/以文社
  • 『クィア・スタディーズをひらく1』
     菊地夏野、堀江有里、飯野由里子(編)/晃光書房
  • 『ランスとロットのさがしもの』
     リンダ・ハーン(著)、アンドレア・ゲルマー、眞野豊(訳)/ポット出版
  • 『ふたりのパパとヴィオレット』
     エミール・シャズラン、ガエル・スパール(作)、中山亜弓(訳)/ポット出版
  • 『僕は僕のままで』
     タン・フランス(著)、安達眞弓/集英社
  • BLが開く扉――変容するアジアのセクシュアリティとジェンダー』
    ジェームズ・ウェルカー(編著)/青土社
  • 『あたいと他の愛』
     もちぎ(著)/文藝春秋
  • 『パワポ LGBTQをはじめとするセクシュアルマイノリティ授業』
     日高庸晴(著)/少年写真新聞社
  • 『法律家が考える LGBTフレンドリーな職場づくりガイド』
     藤田直介(編)/法研
  • 『知らないで済まされない! LGBT実務対応 Q&A』
     帯刀康一(編著)/民事法研究会
  • 『女の子になりたい男の子 LGBTって何?』
     森木森も(著)/みらいパブリッシング
  • 『LGBTヒストリーブック 絶対に諦めなかった人々の100年の闘い』
     ジェローム・ポーレン著)、北丸雄二訳)/サウザンブックス社
  • 『同性愛文学の系譜:日本近現代文学におけるLGBT以前/以後』
     伊藤氏貴(著)/勉誠出版