「インターネットの力で、世の中の選択肢と可能性を広げていく」をミッションに掲げ、さまざまなサービスを展開している株式会社ビズリーチ。未来の経営と働き方を提案する同社が今年から『TOKYO RAINBOW PRIDE』に協賛。ダイバーシティへの取り組みの背景にはどのような考えがあるのか。TRP共同代表理事の杉山文野が株式会社ビズリーチ代表取締役社長の南壮一郎さんに聞いた。

 

株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 南壮一郎
特定非営利活動法人 東京レインボープライド 共同代表理事 杉山文野

 

価値観、人種、セクシュアリティ−−−多様性の次のステージへ

 

杉山文野 ビズリーチさんは今年からTRPに 協賛してくださっています。御社ではなぜいまダイバーシティを重視されるのでしょうか?

南壮一郎 本来、働くというのは楽しいこと、ワクワクすることだと思うのです。ところが既存のシステムの中で必ずしもそうではない人がいる。その人自身はとても能力があるというのに、それを活かすことができないのはもったいないことです。もっと、自分の選択肢や可能性を知ることによって主体的に動くことができるようになるのではないか。そうすることで、働く人が、より、ありのままの自分を表現できるようになるのではないか。2009年の創業以来、そんな思いで当社はサービスを展開してきました。
そして、今、未来の経営や働き方についてより深く考えているところです。わたし自身は海外での生活が長く、多様な価値観、多様な人種、そして多様なセクシュアリティの中で成長してきたという背景もあり、日本も多様性という面で次のステージに進むべきではないかと考えていました。そんな中でTRPについて知って、これはなにか自分たちにも協力できることがあるのではないかと思ったのです。

杉山 海外で育ったという、南さんの個人的な体験が背景のひとつにあるのですね。

 父親の仕事の都合で幼少期から中学までカナダのトロントで育ちました。中学の途中から高校を卒業するまでは日本で過ごしましたが、大学はアメリカの大学に進学しました。

杉山 カナダやアメリカで生活していると、LGBTをオープンにしている人がいたり、生活の景色としてセクシュアル・マイノリティに直面するということがあったと思います。はじめは戸惑いもありましたか?

 戸惑いというのはどうでしょうね。日本の地方の公立高校から、いきなりアメリカの大学に行って驚いたのは、本当にいろんな人がいるということでした。全寮制で、みんな同じ食堂で食事をするんですが、人種だったり、服装だったり、どんなスポーツをやっているかだったりでさまざまなグループに分かれている。
日本の高校ではせいぜい男女とか体育会系、文科系とか4分類くらいしかなかったものが、アメリカの大学ではマス目が無限にある。そういう中でLGBTの人たちもいて友だちになった。日本の高校時代にはLGBTという言葉自体知らなかったし、存在も考えたことがなかった。今はLGBTの友人もいますが、セクシュアリティをめぐる問題について、きちんと理解できているかどうかはわかりません。わからないからこそ興味を持ち続けているという面はあります。

 

 

小さな一歩を踏み出すことの重要性

 

杉山 そういった経験から出てきたダイバーシティを尊重する理念を社内的にはどのように具現化しようとしているのですか?

 当社は創業当時から、さまざまな働き方、さまざまな文化的背景を持つ人を採用してきました。今では海外出身の社員も増え、10カ国以上の国籍の人が働いています。そういうことが当社の強みになっている。

杉山 ただ、みんながみんな海外での生活経験があるわけでもなく、想像力を働かせられるわけでもないですから、ダイバーシティということについて消極的な人もいると思います。そういう、はっきり反対ではないけれども積極的ではない人についてはどうしたらいいのでしょうね。僕たちもアクティビストとして活動する中で、そういう人たちにどうしたらリーチできるのかということをよく考えているのですが。

 組織で言えばトップが言動で示すということだと思います。わたし自身、LGBTについて完璧に分かっているとは言えません。だから、これは小さな一歩だと思うんです。でも突然、なにかが変わることはない。たとえばアメリカの人種問題でも、1950年代にキング牧師をはじめとする人々が行動を開始して、今の人種的平等を目指す社会が出来た。それでもなおまだ問題は残っている。
想いがある人々が小さな一歩を踏み出す。そして社会や組織のリーダーたちは課題を見て見ぬ振りをせず、なにが出来るかを考える。小さくてもアクションを起こすと、それが雪だるまのように大きく、世の中に広がっていくのだと思います。杉山さんがやってきたことはまさにそれだと思うんです。それは、ベンチャー企業とちょっと似ているかもしれません(笑)。

杉山 ありがとうございます(笑)。南さんが素敵だと思うのは「分からない」ってきちんと言えることだと思うんです。なかなか企業のトップは言いづらいですよ。ダイバーシティも、あんまり腑に落ちてないけど、とにかくやらなきゃいけない雰囲気だからやろうみたいな人も多いと思います。分かったふりをされるより、「自分も分からないけど一緒にやろう」というスタンスで関わっていただけるのは嬉しいですね。

 たぶん、わたしが一番、学びたいんですよ。新入社員にもよく言うんですが、分かってないことを分かりましたということは自分の成長を止めてしまうもったいない行為です。大事なのは教えてくださいと言えること。わたしは何歳になっても変われるようでいたいし、そのためには学び続けなければと思っているんです。

 

 

「カミングアウトしても大丈夫」と思える空気をスポーツ界に

 

杉山 南さんは中学から大学までずっとサッカー部で体育会、その後も楽天イーグルスの立ち上げに参加したりとスポーツとは縁が深いですよね。今、LGBTやダイバーシティについて考えるとき、東京オリンピック・パラリンピックが大きなキーワードになっています。
スポーツ界というのは男女の区別がしっかりあってどうしてもヘテロノーマティヴな空気が強い。とくに日本のスポーツ界ではなかなかカミングアウトする選手が出てこないというのが現状です。リオ五輪では60人、ピョンチャンでは15人がカミングアウトしていますが、2020年の東京でカミングアウトしやすい空気にするにはどうしたらいいんでしょうね。なにかアイディアはありませんか?

 そういうスターが1人、出て来ればいいのかもしれないですね。スポーツの世界はマッチョイズムが優勢な社会ですが、そういう中でも誰か1人、カミングアウトするスター選手が出てくる。そうすると、「カミングアウトしても大丈夫なんだ」と思って後に続く人も増えると思います。

杉山 「大丈夫」というのがキーワードだと思うんですけど、大丈夫な雰囲気を周りから作っていくことは大切ですね。そういった面で企業さんがアプローチできることは多いと思います。先日もNTTさんがLGBTについての社内的支援体制を拡充するという発表がありました。グループを合わせると27万人以上という従業員のいる企業が変わることは社会的なインパクトが大きいと思います。

 アメリカでもプロスポーツ界について言えば、まだ「大丈夫」という空気ではないのかもしれませんね。4大プロスポーツでカミングアウトした選手はまだまだ少ないのが現状です。

杉山 僕はシアトル・マリナーズの試合を見に行ったことがあるんですが、セーフコ・フィールドでマリナーズ公認のレインボーグッズが売られていました。そういう取り組みはやはりしっかりなされている。つまり大丈夫という空気を作る努力はしている。
かたや、日本で、ある有名な元野球選手とお話ししたら「日本の球界にはLGBTはいないから」って言うんですね。いないわけはない。可視化されていないだけです。日本のLGBTに関する認識の現状はまだまだこんなものなんだなあと悲しくなりました。

 

 

次の世代により良い社会を手渡すために

 

杉山 今後、ビズリーチさんとしてどのような取り組みを行っていこうとしているのですか?

 まず今回、せっかくゴールデンウィークにTRPに参加しますので、これに合わせて、転職サイト「ビズリーチ」のWeb上でLGBTを含むダイバーシティを積極的に推進している企業の求人特集を企画しています。それから今回の協賛を機にゆくゆくは当社の就業規則を見直して多様な価値観に対応出来るようにしていこうと思っています。ダイバーシティ推進に関しては、より先に進んでいる企業さんから学ばせていただきたいですね。

杉山 特集企画についての企業さんの反応がいかがですか?

 とても良いですよ。やはりダイバーシティに注力されている会社は多いのだと思います。外資系企業様に加えて、歴史のある国内企業様も賛同くださっています。これからの企業経営者には、働いている人にとって素晴らしい環境を作ることがより一層求められます。素晴らしい環境というのは、ありのままの自分を表現しながら能力を開発してそれが成果につながっていく環境だと思うのです。価値観が多様化していく中で経営側は人ときちんと向き合う制度を作っていかなければならないと思います。

杉山 企業もこれからどんどん変化していきそうですね。

 今回のTRPのテーマは「LOVE AND EQUALITY」ですが、未来の経営と働き方って、まさにこの言葉がぴったりだと思うんです。まず自分自身を愛する。自分を愛さないと他者も愛せない。他者を愛するということが平等ということにつながっていくのだと思います。
お互いがリスペクトしあうことは素晴らしいことです。これからの日本が永続的に成長していくためにもとても大事な考え方だと思っています。そして志を持った仲間が集まって社会をより素晴らしくしていくということがわたしたちの世代の責任だと思っています。次の世代により良い社会を手渡すことができればいいですね。

 

 

南 壮一郎(みなみ・そういちろう) 1976年生まれ、静岡県出身。父の仕事の都合で6歳から13歳までカナダのトロントで過ごす。中学で帰国後は静岡県の公立校に。その後、アメリカ・タフツ大学を経てモルガン・スタンレー証券に入社し、投資銀行部でM&Aアドバイザリー業務に従事。2004年、楽天イーグルスの創業メンバーとなる。その後、株式会社ビズリーチを創業し、2009年4月、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を開設。テクノロジーの力で、未来の経営と働き方の創造に取り組む。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2014」選出。2015年12月、日経ビジネスが選ぶ「次世代を創る100人」選出。

 

取材・構成/宇田川しい