文/よしひろまさみち(映画ライター)

 2018年の映画界を振り返ると、LGBTQが主要キャラクターとして登場する作品、またはテーマとなっている作品は、特別なジャンル映画としてではなく紹介され、支持されてきたように思います。それには、さまざまな要因がありますよね。もともと映画ファンの間では、80年代からゲイムービーは当たり前のこととして受け入れられてきましたし、当事者ではないけどファンという人も一定数いました。また、近年の日本におけるLGBTQムーブメントの高まりと、それによっての周知が手伝い、さまざまなセクシュアリティが描かれた作品へ興味を持つ人が増えたこともあるでしょう。

 映画は文化を先導するためにはとても効果的なツールの一つですし、こうしてLGBTQ映画が多くの人に観てもらえる環境ができてきたのは微笑ましいこと。ですが、まだまだ変えていかねばならないことも山積しています。

 まず、こうした映画がメディアで紹介されるとき、とくにそれは大メディアの場合、「LGBT映画」とひとくくりにされてしまうこと。メディア側からすれば、ゲイ・レズビアン・トランスジェンダーなどの言葉を使うと、急にその記事にセクシュアルなイメージがついてしまう、という思い込みがあって、LGBTという言葉がいいように使われている節があります。LGBT映画だなんて……性的マイノリティ全部盛りの映画なんてそうそうないのにね。

 また、ゲイを主要キャラにした映画が他の性的マイノリティを描いた映画に比べて多く見えるのも、日本らしい現象です。それは、ゲイ映画がBL市場とオーバーラップする部分があるので、マーケットとして他よりも大きい、ということがあります。が、これでは文化を先導する映画としての役割は果たしきれていないことになります。

 ゲイ以外の性的マイノリティを描いた映画の良作も世界には多数あるのに、なぜ日本で公開されないのか。それは、日本の映画業界にまだ根本的な問題があるからでしょう。先ほどメディア側がLGBTをいいように使う、と述べましたが、映画配給の業界も同じです。実際に劇場に足を運ぶ層は当事者だけじゃない、というのに「性的マイノリティの映画」を配給するとヒットは見込めない、と思われているんですね。それは、日本映画でLGBTQを描いた商業映画がゼロに等しいことからも分かります(ドラマはありましたが、原作ありきでした)。

 長くなりましたが、これらの問題点が今年公開された作品の中で打破できていたものが少なからずあったのが希望の光。その代表的なものが『君の名前で僕を呼んで』や『カランコエの花』、テレビドラマの『おっさんずラブ』『弟の夫』などです。これらは、LGBTQ当事者やアライのストレート、映画ファンはもちろんですが、これまで全く性的マイノリティに眼を向けてこなかったストレート社会からの反響が大きかった作品。こうした突破口となる作品の何が良かったかといえば、圧倒的な脚本力でしょう。当たり前のことですが、映画はどんなにスターが出ていたり、映像に凝っていたりしても、物語がちゃんとしていなければ駄作。その点で、これらの作品は物語の構築が見事で、誰が観てもそれぞれの人が考えさせられるものとして成立していました。特に『カランコエの花』は劇場での興行には向かない中編でしたが、作品が投げかけた社会的問題は人の心を打ち、口コミの力で拡大上映につながったのだと思います。

『君の名前で僕を呼んで』©Frenesy, La Cinefacture

 それとともに、今年はドキュメンタリー、実録映画が豊作でした。90年代フランスのACT UPの活動を描いた『BPM ビート・パー・ミニット』や、トランスジェンダーの女優が体当たり演技で挑んだ『ナチュラルウーマン』、アメリカで実際に起きた事件をもとにした『最初で最後のキス』、大阪の弁護士ゲイカップルを追ったドキュメンタリー『愛と法』など。LGBTQが実社会で顕在化しにくかった過去とはオサラバ、といった具合に、ハッピー虚構のLGBTQではないリアルライフを映し出した作品が増えているのは、じつに今らしいこと。

『BPM ビート・パー・ミニット』 © Céline Nieszawer

こういった流れが定着し、商業映画としてもLGBTQ映画が成功を収められるようになるにはまだまだかかりそうですが、今年はその一歩を踏み出せたのではないかと思います。その実、「第27回レインボー・リール東京」で上映された後、シネマート新宿・心斎橋の特集上映で全回完売御礼となった『ゴッズ・オウン・カントリー』の盛り上がり方は、その兆しを感じさせました。幸い、2019年2月からの配給が決まりましたので、より多くの人がこの作品を観られます。また同時期は、アメリカで映画賞シーズンまっただ中。オスカー候補入りが目されている作品の一つで、同性愛を矯正強要した実話をベースにした『ある少年の告白(原題 Boy Erased)』も日本公開が決定しています。2019年はこの他にも良作の数々が日本で公開予定ですので楽しみにしていて下さい。その一方、まだ日本の配給会社が手を付けていない良作もあります。『ゴッズ・オウン・カントリー』のような一般レベルの盛り上がりさえあれば、日本上陸も(それがソフトでも配信でも)夢ではありません。今は、映画を愛する皆さんで声をあげることが、より多くの良作と出会え、理解を深めるチャンスを生める時代。映画好きの方はもちろんですが、これを読んで映画にちょっと興味を持っていただけた方々、2019年はたくさんの映画に触れてみて下さいね。

■2018年公開のLGBTQ映画[テーマ別]

(劇場で商業公開されたもの、または配信・ソフト化されたもの。映画祭での上映を除く。※よしひろ調べ。抜けがあったらごめんなさい)

★レズビアン

★ゲイ

★トランスジェンダー

★インターセックス

★LGBTQコミュニティ

■2019年日本公開が決定している作品

  • ゴッズ・オウン・カントリー
       監督:フランシス・リー(2017年/イギリス)*2月2日より公開予定
  • サタデーナイト・チャーチ 〜夢を歌う場所
     監督:デイモン・カーダシス(2017年/アメリカ)*2月22日より公開予定
  • McQueen(原題)
     監督:イアン・ボンホート(2018年/イギリス)*4月より公開予定
  • ある少年の告白(原題 Boy Erased)
     監督:ジョエル・エドガートン(2018年/アメリカ)*4月より公開予定
  • Girl(原題)
     監督:ルーカス・ドン(2018年/ベルギー・オランダ)*夏公開予定
     [予告編
  • Bao Bao(英題)』(原題:親愛的卵男日記)
     監督:謝光誠(2018年/台湾)
     [予告編

■公開未定(2017〜18年の欧米新作。日本配給未定)

  • A Moment in the Reeds
     監督:Mikko Mäkelä(2017年/フィンランド・イギリス)
  • Becks
     監督:Daniel Powell, Elizabeth Rohrbaugh(2017年/アメリカ)
  • Tom of Finland
     監督: Dome Karukoski(2017年/フィンランド・スウェーデン・デンマーク・ドイツ・アメリカ)
  • Disobedience
     監督:セバスティアン・レリオ(2017年/アイルランド・アメリカ・イギリス)
  • Mi mejor amigo(My Best Friend)
     監督:Martín Deus(2018年/アルゼンチン)
     [予告編
  • Vita & Virginia
     監督:Chanya Button(2018年/イギリス・アイルランド)
     [予告編
  • Papi Chulo
     監督:John Butler(2018年/アメリカ・アイルランド)
     [予告編
  • Splinters
     監督:Thom Fitzgerald(2018年/カナダ)
     [TIFF予告編
  • Tell It to the Bees
     監督:Annabel Jankel(2018年/イギリス)
     [予告編
  • Gloria Bell
     監督:セバスティアン・レリオ(2018年/アメリカ・チリ)
     [予告編