文/よしひろまさみち(映画ライター)

 LGBTQのキャラクターが主人公、または重要なポジションを占める映画。2018年は優秀な作品ぞろいの上に豊作といえた年でした。では、2019年は? というと、2018年と比べてしまうと、かなり少ない印象があります。映画の製作は企画立案から完成~公開までに、短くて2~3年、長くて10年程度はかかるもの。なので、2018年に公開されたLGBTQ作品が多いのに、2019年は少ない、ということを短絡的に「ブームが終わった」「バックラッシュだ」と受けとめるのは間違っています。スピード感を持って、旬なネタをテーマに製作されるテレビ作品や配信用の作品と比べると、映画作りは大きく異なることがあるということを、まずは知っておくべきです。

 そんな状況を踏まえて、2019年の公開作を振り返ると、公開作こそ少ないながらも、ジャンル映画として定着している感触は得られます。今回はそのなかでもトピックの多かったゲイムービー中心に、映画配給の仕組みからひもときたいと思います。

 2019年の特に大きなニュースとしては、ゴッズ・オウン・カントリーの公開。2018年のレインボーリール東京で上映されたのを皮切りに、同年の限定上映を経て、2019年に全国公開に至った作品です。レインボーリール東京上映時から反響がすさまじく、5回こっきりの特集上映は毎回満席御礼。その時点では、日本の配給会社が上映権をもっておらず、全国公開は難しいとされていました。ところが、特集上映の大好評を受けて、配給会社が権利を取得。全国公開ができるようになりました。

 「海外ではすでに公開されているのに、日本では観られない! 観られたとしても遅すぎる!」という声はよく耳にします。そういった作品の多くは、このように日本の独立系配給会社が購入にかかるコスト面で手を出せない作品が主です。『ゴッズ~』は、サンダンス映画祭やベルリン国際映画祭など、世界の有力な映画祭で上映され、賞も受けてきた作品。おまけに製作国のイギリスを中心に、欧州ではスマッシュヒットを記録しており上映権は高騰。とてもではないが、日本での収益は見合わない金額になっていたのです。それでも、映画祭での上映、特集上映のための限定権で、なんとかこの作品を日本の映画ファンに紹介したい、という強い思いが、全国上映にまで実ったのは、LGBTQ映画というジャンルにおいては明るいニュースでした。

 それと似たような動きがあったのはWEEKEND ウィークエンドです。さざなみでシャーロット・ランプリングをオスカー候補にまで送り出した、アンドリュー・ヘイ監督の長編デビュー作、2011年の作品です。レインボーリール東京の前身である『第21回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭』(2012年)に上映されてから7年。ようやく劇場公開となりました。アンドリュー・ヘイは、この作品が大絶賛を浴びた後、この作品同様に平凡なゲイライフを描き出して好評を得たHBOのテレビシリーズ『Looking』を手がけ、ゲイムービーの流れ、映画におけるセクシュアルマイノリティの描き方を一変させた人物です。やはり『ゴッズ~』同様、『WEEKEND~』も配給権は高額になってしまっていたのですが、『さざなみ』のおかげで一気に監督の知名度が上昇し、2017年の荒野にてが日本公開されるタイミングで、監督のファンに訴求するとみなされ、晴れて日本公開となった経緯があります。

 今はSNSのおかげで、良作の評判はすぐに世界中に伝わり、想定外のヒットを打ち出すことも珍しくなくなりました。が、その半面、海外で公開されているのに日本では観られない、という作品の存在が知れるのも光の速さで、それゆえに「日本の配給会社は分かってない」という人も少なからずいます。ですが、それはこれらの作品のように「日本で観てもらいたくても、コストと収益のバランスが合わない」という理由によるものがほとんどです。ミニシアターブームだった1980~90年代は、積極的にLGBTQ映画、おもにゲイムービーを配給する会社が多かったのは、ブームのおかげで映画ファンの口コミがいい形で伝播し、ヒットに結びつけることができたから。

 では今は?というと、全国的にミニシアターは激減。シネコンが行き渡ったおかげで、かつて都心のミニシアターでしか上映されなかった作品が、全国で上映しやすい環境ができました。が、その半面、シネコンの収益は人気のあるハリウッド大作と邦画によって支えられているため、小規模の作品は上映してもモーニング/レイトショーの1日1回こっきりという現実があります。それでは、LGBTQ映画の良作が上映できたとしても、収益は見合わないということになります。そのため、独立系の配給会社が二の足を踏むということにつながるのです。頭ごなしに「こんな良作があるのに、日本で上映されないなんて、日本の配給会社はダメだ」というのは簡単ですが、商売として成り立たなければ買えない、上映できないというのは当たり前なんですね。

 今も昔も、配給会社のスタンスは変わりません。いい作品を日本に紹介したい、という思いで、儲け度外視の商売をしている会社がほとんど。2019年はGOLD FINGERが初配給を手がけたバオバオ フツウの家族が公開され、多くの人に観てもらう機会がありました。それも、そういった強い思いがなければ実現しえなかったことです。とはいえ、デフレが進みすぎた日本ゆえに、海外の作品の買い付けは非常に難しい状況になっています。LGBTQ映画など、テーマ性の高いジャンル映画にそのしわよせが集中しているといえるでしょう。

 では、日本は本当にダメなのか? というと、じつはそうでもありません。どんな国の映画ジャーナリスト、監督などに聞いても「日本は小規模の良作を上映しても、ちゃんと観てくれる人がいる」と言います。日本における海外の小品に関しては、配給する会社、上映する映画館、観るお客様、この三拍子がそろっていないと公開ができませんが、他国に比べればまだ好条件なんですね。ただし、それは今までのこと。日本での映画人口が激減している今、それも難しくなってくるだろうというのが、冷たいながらも現実的な予測です。

 今後はNetflixなどのストリーミング配信の方が、アップトゥデートな新作を観るチャンスが増えるでしょう。2019年でいうなれば、マイケル・ジャクソンによる性暴力被害者のドキュメンタリーネバーランドにさよならをが、欧米での放映からあまり間をおかずNetflixで配信されましたし、第92回アカデミー賞外国語映画賞の台湾代表にもなった先に愛した人もNetflixで配信となりました。最新作をどこでも観られる、というのは最強ではありますが、劇場での鑑賞体験とは別物。やはり映画は、映画館で共有してこその総合芸術でもあるため、良作が配信のみで公開というのは残念な限りです。

 それだけに、レインボーリール東京をはじめとした映画祭や特集上映の機会は逃すべきではありません。『ゴッズ~』のように反響さえよければ全国公開に結びつくこともある、という好例を出すこともあるのですから。

■2019年日本公開LGBTQ映画[テーマ別]

(劇場で商業公開されたもの、または配信・ソフト化されたもの。映画祭での上映を除く。※よしひろ調べ。抜けがあったらごめんなさい)

★レズビアン


★ゲイ

★トランスジェンダー

■2020年日本公開予定作品

  • his
    監督:今泉力哉(2020年/日本)*1月24日より公開予定
  • ダンサー そして私たちは踊った
    監督:レヴァン・アキン(2019年/スウェーデン、ジョージア、フランス)*2月21日より公開予定
  • 窮鼠はチーズの夢を見る
     監督:行定勲(2020年/日本)*上半期公開予定
  • LOVE STAGE!!
     監督:井上博貴(2020年/日本)
  • 『ミッドナイトスワン』
     監督:内田英治(2020年/日本)