パレードは始まりから怒号に包まれた。

東アジア有数の巨大空港を擁する韓国第4の都市、仁川(インチョン)。その旧市街で昨年9月8日、第1回目となる「仁川クィアパレード」が開催された。ところが、イベント会場となった東仁川駅前は、キリスト教の保守プロテスタント(宗教右派)や極右団体のメンバー1,000人に占拠された。 

保守プロテスタント(宗教右派)や極右団体のメンバーに襲撃された2018年の「仁川クィアパレード」の様子(撮影:@ehdqhtka)


彼らはパレードにやってきた参加者にヘイトスピーチを吐き、車椅子を倒し、暴行を働いた。中には女性参加者の髪を掴み、性暴力を示唆するなどの脅迫を行った者すらいた。

参加者は10時間近く包囲され、身動きも取れない状態となった。夜になりなんとか再開にこぎつけたパレードだったが、妨害が繰り返され、400メートルを進むのに5時間もかかった。攻撃はそれだけにとどまらず、会場周辺のビルの屋上から参加者の顔をアウティング目的で撮影し、わざとフロートの前に飛び込んで「怪我をさせられた」とフェイクニュースを流した。

これらすべてが「信仰の名のもと」に行われたヘイトクライムだ。

権力機関や企業による人権侵害には非常に敏感な韓国メディアだが、性的少数者の人権侵害については及び腰だった。しかし、神の名の下にヘイトクライムが行われたことに、激しい非難の声が上がった。保守キリスト教が朴槿恵政権下での不正を糾弾する人々に対して、フェイクニュースを流し攻撃したのと、同じ構図だったということも影響しているだろう。

あれから1年。今年の8月31日に、場所を富平(プピョン)駅前の広場に移して、2回目となる『仁川クィア・カルチャー・フェスティバル』が開催された。警備の不手際が暴力を招いたと厳しい批判を浴びた警察は、去年の3倍にあたる2,400人を警備に当たらせたこともあり、駅前広場は警察官であふれかえった。パレードの安全な開催のためには、致し方ないこととはいえ、外国人の目には異様な光景に映るかもしれない。

しかし、広場に一歩入れば、そこは別世界のように穏やかな雰囲気に包まれていた。所狭しと49ものブースが立ち並んだが、10万人近い人が訪れるソウルのパレードに比べれば、落ち着いてブースを見て回れた。

『仁川クィア・カルチャー・フェスティバル2019』が開かれた富平(プピョン)駅前広場の様子(撮影:筆者)


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