2016年10月、築地本願寺で初となる同性結婚式を挙げ、また「LGBTコミュニティ江戸川」の副代表として、2019年4月1日から導入された江戸川区での同性パートナーシップ制度実現のために尽力してきた七崎良輔さん。そんな彼が、幼少期から思春期、青年期にかけて経験してきた、いじめや失恋、友情や親へのカミングアウトなどの半生を綴った『僕が夫に出会うまで』が文藝春秋から刊行された。

 

撮影/平松市聖(文藝春秋)

七崎良輔(ななさき りょうすけ) 「合同会社Juerias LGBT Wedding」共同代表/「LGBTコミュニティ江戸川」副代表。

 「いとおしい! かわいい!! うれしい!!!」
 納本されたばかりの自著を手に取った七崎さんは、満面の笑みを浮かべた。
 2015年から、パートナーの亮介さんとの「夫夫生活」をブログで綴って公開してきた。「人に伝える力があるから、今までのブログをまとめて、自費出版で本を出せば」と亮介さんが言ってくれたのを受け、3年前から少しずつ原稿を書き始めた。ところが、なかなか筆が進まず、2年が過ぎてしまった。「こんな調子じゃあ、自費出版のお金、出さないからね」と言われ、それからは尻を叩かれつつ、一生懸命書き綴った。ひとまず書き上げた原稿を、知人や友人に読んでもらうと、なかなかの好評で、そこから人を介して出版社を紹介してもらうことになったという。

 幼少期から学童期、思春期、青年期と年齢を重ねていく過程で、およそ男性同性愛者が経験するだろう様々な「通過儀礼」のような出来事――いじめ、孤立、性のめざめ、男性への恋心、失恋、内なるホモフォビア、ゲイ・アイデンティティの確立、カミングアウト、初体験、友情、そしてパートナーシップ……を、主人公の七崎良輔の歩む道のりを通してひと通り味わうことができる、それこそが、本書の魅力なのではないだろうか。

 例えば、小学2年生の頃のこんなエピソード。授業が全部終わった後の「帰りの会」と呼ばれるホームルームのときのこと。担任の先生が七崎さんを前へ呼ぶと、「先生は七崎くんのことを『ふつうの男の子』だと思うんだけど、どうしてみんなは『オカマ』って呼ぶのかな?」とクラスのみんなに問いかけ、「これからは『オカマ』と呼ぶのはやめましょう」と先生が結論づけてホームルームは終わった。このとき、「僕は『ふつう』じゃないんだ」と痛烈に感じ、惨めで、悔しくて、ものすごくつらい体験として今でも忘れられないという。

 ちょっとした仕草や話し方が女っぽいということで、「オカマ」とからかわれた経験を持つゲイの当事者は多いと思う(必ずしも当事者とは限らないが)。もしかしたら今、「オカマ」と嘲笑されてつらい思いをしている児童・生徒もいるかもしれない。逆に、「オカマ」と呼んでからかった経験のある人もいるかもしれない。とてもつらいエピソードだが、七崎少年がこの後、どのようにして「ゲイである自分」を受け入れ、肯定し、乗り越えていったのか。そこに至った道のりには、多くのヒントが隠されている。

幼少期の七崎さん。

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