2018年10月にTwitterを始めるや、瞬く間にフォロワー数を伸ばし、2020年1月現在53.6万人もがフォローする人気インフルエンサーとなった、もちぎさん。19年8月に初めての著作『ゲイ風俗のもちぎさん セクシュアリティは人生だ。』(KADOKAWA)を刊行。ゲイ風俗で働いた体験をコミックエッセイとして著し、ひと月で4刷まで重ねるベストセラーとなった。
 2019年11月には初の自伝エッセイ『あたいと他の愛』(文藝春秋)を上梓。父の自殺、毒親のシングルマザー家庭、経済的にも困窮状態の苦しい環境の中で、中学時代から高校卒業までの多感な時期を、地方の田舎町でどのように生き抜いてきたかを綴っている。このように書くと、そういう家庭環境だからゲイになったのでは? あるいは、愛を知らない孤独な思春期だったんだろうな、といった印象を与えてしまうかもしれない。しかし、それはまさしく「誤解」であり「偏見」である。本書の「はじめに」で、もちぎさんが書いているとおり、ゲイになるのは家庭に問題があるからでは決してない。そして、苦しい環境ではあったけれど、「あたいには、“姉”も“恩師”も“友達”も“仲間”もいて、みんなから充分すぎるほどの愛や想いを貰ってきたわ」と、もちぎさんは本書で当時を振り返る。
 顔や身元などを公表せずに活動しているもちぎさんに、インタビューできる貴重な機会を得たので、著作や作家活動などについて聞いてみた。

もちぎ 作家。平成初期に生まれたゲイ。元ゲイ風俗とゲイバーの従業員。現在は田舎で隠居生活を送っている。2018年10月より開始したTwitterで瞬く間に人気を集める。初の著書、ゲイ風俗で働いていた時の話をまとめたコミックエッセイ『ゲイ風俗のもちぎさん セクシュアリティは人生だ。』(KADOKAWA)を2019年8月に出版。11月には初の自伝エッセイ『あたいの他の愛』(文藝春秋)を刊行。

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もちぎ『あたいと他の愛』(文藝春秋/1,200円+税)


自伝エッセイ『あたいと他の愛』に込めた思


――Twitterを始めたきっかけは?

もちぎ:2018年10月に「もちぎ」としてTwitterを始めるまでは、ゲイの友達とはつながっていましたが、一般の方に向けてSNSで発信することはありませんでした。きっかけは、その年の4月から6月にかけて放映されたテレビドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)です。それ以前から、同性パートナーシップ制度をはじめ、LGBTQ関連の話題がテレビなどで報道されているのを見ていて、いつかこういうことを自分も発信できたらいいなと思っていて、その矢先に『おっさんずラブ』のものすごい盛り上がりを目の当たりにして、今しかない! と。

そう思い立ったときに、単にゲイの当事者の思うことだけじゃなくて、ゲイ風俗やゲイバーで働いていた自分の経験を生かして、何か発信できることがあるんじゃないか。そして、自分が見てきた、「普通」の学生や若者と同じような悩みを持つ、「普通」の格好をしたゲイの子たちのことも発信したいなと思ったんです。


――『おっさんずラブ』は、どんな印象でしたか?

もちぎ:純粋に面白かったです。ドラマとしても面白かったし、「これが世の中に受け入れられたんだ」みたいな部分でも印象深くて。「BLチックでリアルじゃないよね」「確かにそういう部分もあるね」みたいな感じで、周りのゲイの子らとゲイバーとかで意見や感想を語り合うようなこともあって、その影響力もすごいなって思いました。


――発信するツールとして、Twitterを選んだのは?

もちぎ:その拡散力です。ブログも同時に始めたんですけど、「ゲイ作家が書いてます」では、興味のある人だけが訪問するページになってしまう。でも、Twitterって不可避な部分があるじゃないですか。友達のリツイートで、興味のないことにも触れるチャンスがある。セレンディピティというか、そんな突発的な出会いのある場所で自分が発信すれば、もっともっと知らない人に届けられるだろうなと思って、Twitterを選びました。実際、フォロワー数が50万を超え、予想外の反響に自分でも驚いています。


――Twitterで発信する際に、気をつけていることは?

もちぎ:まず活動家の方々のTwitterを参考にさせていただきました。そのフォロワー数やフォロワー層を見ていると、それでもやっぱり、興味を持つだろう人たちだけになっていて、もっと広くいろんな人に知ってもらいたいなら、エンターテインメント性は必要だなと感じました。目に付く可愛らしいアイコンとかで、自分の発信だとわかりやすくする。でも、面白いほうに曲がりすぎて伝えたいことが誤解されないようには気をつけました。そして、いい話も悪い話も両方とも書いていく。


――何がここまでウケたんだと思いますか?

もちぎ:いま世間の関心が高いLGBTQというテーマもそうですけど、「ゲイ風俗」という題材の目新しさも大きかったのかなと思っています。発信していく中で自分が心がけているのは、「ゲイだけが特別」とか、「ゲイ風俗の世界は特別」ってことではなくて、普遍的な話題を意識してちりばめることです。自分のことも家族のことも、こうやって言葉にすることで考えるし、気付くこともある。そういう多くの人が共感し、共通点を見いだせる話題を発信したことが、たくさんの人に受け入れられた要因だったのかなと思っています。


――Twitterで一気にフォロワーが増えたことが、本の出版につながったんですよね。

もちぎ:そうですね。でも、もともと、出版とかは全然頭にありませんでした。漫画とかをTwitterで発信すれば拡散されて、それで社会的なテーマも入れてあるからいろいろ議論が生まれ、さらに、自分がしっかり書いたブログのほうにもアクセスしてもらえる。そして話題になって、インタビューとか取材とかを受けたりしたら、そういうメディアさんにも載せていただける。そうすると、新しい読者さんが増え、いろんな人の目にもさらに触れられるようになる。そんなふうなイメージは持っていたんです。けれど、こうやって出版社の方に声をかけてもらって、本という形にしてもらえるとは思っていなくて。本当にありがたかったです。


――最初の著作『ゲイ風俗のもちぎさん』の反響はいかがでしたか?

もちぎ:初めての本ということで、ファンの方々にも買っていただき、いろんなメディアにも取り扱っていただき、さらに多くの人に読んでもらうことができました。ゲイ風俗の友人たちも、自分たちの過去をこうやって知ってもらえ、後ろめたさのあった業界が面白おかしく興味本位ではなく、きちんと考えてもらえるようになったらいいね、と言ってくれました。


――ゲイ風俗って、昔からあったわけですが、ただ、そこで働く人も周りの環境も、だいぶ変わったのかな、という印象を受けました。

もちぎ:自分たちの世代は、お店のブログやTwitterをボーイが書くんですが、若い子たちの中では、そこに顔を出して宣伝する人も増えてきています。別に「ボーイです」って大っぴらに言うわけではないんですが、自分がゲイだって言えることとか、あるいは、ゲイ風俗で働き、評価されてお金をもらえることを嬉しいって感じてくれている子とかもいて、上の世代の人からしたら「変わった」って感じるみたいです。この仕事にプライドが持てるようになったというか、後ろめたさがなくなってきたんですよね。


――今回の『あたいと他の愛』は、初の自伝エッセイということですね?

もちぎ:タイミング的にも、そして、漫画ではなく文章で、という点においても、とてもありがたいお話だったなと思っています。というのも、初の著作となるコミックエッセイで、まずは本の出版という話題を作れた上で、今回のエッセイで深掘りするという流れができたからです。それによって、ファンの人はもちろん、あのゲイ風俗で働いていた人の本かってことで、より多くのいろんな人に認知してもらうことができました。そして、「一人のゲイ当事者」ということだけでなく、「一人の人間」として、家族や恋人のこと、家出や就職、初恋やセクシュアリティなどに関する自分の経験を文章で綴ることで、新しい深みといいますか、「自分も頑張ろう」というような共感や励ましにつながれば嬉しいなと思っています。


――このエッセイで、伝えたかったところは?

もちぎ:自分としては、昔は気づけていなかった恩や感謝を、本という形にしたいという思いがありました。特に、恩師のK先生に対しては、当時は「うっとうしい大人だな」って思ったりしたこともあって。でも、今振り返ってみると、また、大人になって先生に再会したときに、やっぱり、あのとき、ああいうふうに言ってくれたのは、本当にありがたかったなって。今だからわかる感謝の気持ちです。

あるいは、恋人や親といった特別な人だけではなく、何かこう、自分のまわりをもう一回、見まわしたときに、何か大切なものー自分に向けられた「言葉」だとか、「愛」だとかがあったことに気づくんです。ゲイだから、苦しんできた人だから話を聞こう、というのではなくて、一回そういうのを取っ払って、この本をきっかけに、みなさんも一度、自分のまわりを見直してみたら、今まで気づかなかった「誰かの一生懸命な想い」や「深い愛」が見えてくることもあるんじゃないでしょうか。


――『あたいと他(た)の愛』という本のタイトルにつながりますね。

もちぎ:そうですね。自分で考えたタイトルなのですが、最初は「わかりづらい」と担当編集者に再考を促されました。でも、ゲラがあがっていくうちに、「これしかないね」と編集者からのOKが出て。


――アナグラムというか、「音」の並びも面白いですよね。でも、覚えにくい(笑)。

もちぎ:「もちぎさん」の本とか、「あたい」の人の本って言われます(笑)。



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