今回ご紹介するのは、前田健『それでも花は咲いていく』(幻冬舎)です。今年のプライドウィーク開始の前日に、三回目の命日を迎えた前田健さんは、お笑い芸人や振り付け師として活躍していただけでなく、かつて、小説を書き、同作の映画監督もつとめていました。

 『それでも花は咲いていく』は、ちょっと人には言いにくい性の悩みを抱えている主人公たち9人の短編集です。「ロリコン」や「マザコン」「ストーカー」などカテゴリーの名前で呼ばれてしまいがちな人たちと、「一般社会」や「普通」と呼ばれるものとの戦い……、と言ってもわりと一方的に負けてるんですけどね。

前田健『それでも花は咲いていく』(幻冬舎)

 もしも私の友人がこの物語に出てくるような人たちだったら、「キモい!」とか「やめろ! 捕まるぞ!」とか反射的に答えてしまうかもしれませんが、小説で読むと、なんだか自分もロリコンやストーカーの疑似体験をした気分になって、少し寄り添ってあげたくなるような気もするのです。「一緒に自首しにいこう」とか、「いやー、やめたほうがいいよー。まあでもやめられないからやってるんだよね。わかる。いや、本当にはわかってはいないんだけど、いやでもやめたほうがいいと思うよー」。ぐらいは言えるようになるかもしれません。

 このように、凝り固まった正義感や倫理観を揺さぶってくれる小説が好きな方は、岸本佐知子編『変愛小説集』『変愛小説集2』『変愛小説集 日本作家編』(講談社)のシリーズもおすすめします。岸本佐知子さんは、英米文学の翻訳家で、いつもちょっと変わった作品を飜訳されることで有名です。このシリーズも、庭の木に欲情しちゃう子の話や、人形と付き合っている子の話、3人で付き合うことが「普通」になった世界の話など、ちょっと、不思議なお話がたくさん。でももしかしたら、長生きしたらそんな人たちに会えるかもしれません。

 

 

岸本佐知子編『恋愛小説集』『恋愛小説集2』『恋愛小説集 日本作家編』(講談社)(幻冬舎)

■ティーヌ
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ノンセクシャル、アセクシャル など、セクシャル・マイノリティと呼ばれる人々が登場する小説を応援する会、読書サロンを主宰。月に1回、都内で読書会を開催。
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