その前に一言。
親との関係の悩みについて話題になるとですね、「すべての親の行動は子を愛しているからだ。子は親の愛を理解すべき」と教えてくださる方が非常に多いです。また「子どもを受け入れられない親とは二度と会わなくていい」とアドバイスしてくれる方もいらっしゃいます。ちょっと落ち着いて考えていただきたいのですが、人間関係は一種類だけではありません。家族関係だってそうです。愛情とか感謝とかそんなものがなくても、奨学金の保証人や、賃貸契約の保証人や、パスポートの緊急連絡先や、保険金の受取人や、遺産相続とかいろんな社会のシステムで、家族制度が利用されているんです。複雑なんです。

あなたの家族と他人の家族は全くの別物だという事実を受け入れ、そして、あなたのその考え方を目の前の人が必要としているのかどうかよく考えてからご発言いただければと思います。

ジャンディ・ネルソン『君に太陽を』(集英社)は、皮膚がピリピリするほど緊張感のある、家族関係の話です。

ジュードとノアは双子の姉弟。美術の先生でもある母親と、頭の固い父親、そして祖母と暮らしている。13歳の時、ジュードは明るく人気者だが、ノアは内向的で絵を描いてばかり。全く性格の似ていない双子だが、お互いは唯一無二の理解者だった。が、ある事件をきっかけに、家族の関係は崩壊に向かう。

16歳の時、ジュードは美術専門の高校に通い、ノアは絵に興味をなくしたように男と遊んでばかり。母と祖母は亡くなり、父親はほとんど干渉してこない。ジュードはノアにもう一度、美術への興味を取り戻してほしいと思うが、お互いを傷つけ、すれ違いばかりしている。

LGBTを扱った文学に贈られるストーンウォール・オナー賞受賞作品です。
どんなに長い時間を共有しても、どんなに仲が良くても、どんなにお互いのことをわかっていると思っていても、別の人間です。本当の気持ちを言えなかったり、言えなかったことを後悔することの連続です。素直になったからって、和解できるわけじゃありません。謝られたって許さなくてもいいんです。そして和解したら万事オッケーというわけではありません。和解できるまで、相手が待ってくれないこともあります。

「家族だから、仲良くすべき」という呪縛から逃れて、一対一の人間関係を築けばいいのです。この作品は、一人前の人間になる訓練をするジュードとノアの、痛みを伴う成長物語です。

ジャンディ・ネルソン『君に太陽を』(集英社)

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