「当たり前の範囲」を広げていきたい


――本書の中で、中学生のころ、図書室に入り浸って読書に没頭していたとありましたが、どんな本を読んでいたんですか?

もちぎ:よく聞かれるんですが、実は、特に「本が好きな人間」というわけではなかったんです。「読書しかすることがなかった」とか、「好きな先生が国語教師だった」「姉がよく本を読んでいた」とか、そんな感じで、だから、読んできた本をすごく覚えているとか、思い入れがあるとか、そういうのはないんです。自分にとっては、図書室は、集中できる、頭を空っぽにできる場所で、表紙とかを見て「興味あるな」と思えば手にとって読んでいました。今振り返れば「現実逃避」と言えなくもないですが。


――興味を持った本を、こだわりなく読んでいたんですね。

もちぎ:はい。でも、その影響で、姉が読んでいた少女漫画やガールズコミックを読むようになり、その中には、男の人が女子高生を買うシーンもあったりして、「男の人ってこんなんなんだ」と驚いたり、「売春・買春」という概念を知ったりと、その後の人生にとても影響を与えた読書体験もありました。


――「影響」と言えば、今はインターネットの時代ですよね。

もちぎ:高校に入ると、姉がケータイを買ってくれました。インターネットにつなぎ、早速調べたのが「ゲイ」という言葉でした。出会い系サイト「Men’s Net Japan」が全盛のころで、そのエリアボード(地域限定の掲示板)にアクセスしてみると、数分ごとに自分が住んでいる地域でも書き込みがあって、びっくりしました。検索してもゲイバーなんかない田舎町にも、「ゲイって、いるんだ」って。中には自分と同世代の若い人もいて、メールのやりとりをしたりもしました。自分以外のゲイと初めて遭遇するのが、ゲイバーなどではなく、インターネット上で、という新しい世代ですね。


――昔は、ゲイバーかハッテン場か、ゲイ雑誌の回送とかだったんですけどね。

もちぎ:でも逆に、「SNSがあるからこそ孤立している子」とかもいるんですよね。東京なんかでは、16歳や17歳くらいでも、同世代の子が集まって「平成●年会」とかをやってたりするんですけど、地方に住んでいる子なんかだとTwitterを見るだけで、ゲイの当事者と話したことないって子もいるみたいで。よくTwitterのダイレクトメッセージなどで相談をもらったりします。「新しい世代の孤立」ですね。

 Twitterをやり始めた当初は、いただいたダイレクトメッセージ全部に返事を書いていたんですが、さすがに1日に200~300件もいただくようになると返せなくなってしまって、3、4ヵ月たったころに、返事はできないけど確認だけはさせていただきますと書き込みました。なので、今は個別の返事はしていませんが、気になることがあったら、日々の発信や作品の中で、寄り添い合って一緒に考えましょうと伝えています。自分自身、人生に迷っている生身の人間ですし、何においても答えを持っているわけではないですから。


――今、お仕事は書くのがメイン?

もちぎ:はい、書く仕事がほぼメインです。


――このキャラクター、自分で描かれているんですよね。もともと、漫画を描くのは好きだったんですか?

もちぎ:いいえ、漫画を描くのも読むのも、あまりしたことがなかったんです。でも、Twitterの特性上、漫画のほうが注目度やインプレッションが高いということを知って、注目を浴びるためには、漫画を上手く使うのがいいだろうと思い、練習したんです。最初のころは、それこそ、メモ帳にボールペンで書いた拙い絵で、それを写真に撮って発信していたんですよね。


――今は、どうやって描いているんですか?

もちぎ:今はiPadで描いています。こっちのほうが便利で、拡散力もありますし、コミックで本を出しませんか、というお話もいただいたので、路線変更しました。


――立て続けに著作を2冊出版しました。今後は?

もちぎ:ゲイ風俗以外にも、ゲイバーで働いたことがあって、そのゲイバーでの経験をもとにコミックエッセイを描いています。ゲイバーは、ゲイ風俗とはまた違って、出会う世代の幅も広いし、女性も入れるお店だったんで、いろんな人と触れ合うことができました。最近、伏見憲明さんの『新宿二丁目』(新潮社)を読んだのですが、「新宿二丁目」という場所の歴史をより深く知ることができました。ゲイバーって、ポッと話題になって出てきたものじゃなくて、昔から脈々と受け継いできた人たちが、戦って勝ち取ってきた居場所なんですよね。「LGBT」って言葉がはやったから、LGBTの人が生まれたんじゃなくて、昔からこうやって、存在していたわけです。自分がゲイバーで見聞きしてきたことを、たくさんの人に伝えられたらいいなと思っています。


――LGBQ当事者として生きていくには、まだまだ困難の多い日本の社会にあって、こんな社会を目指したいとかってありますか?

もちぎ:自分の周りの当事者の話になってしまうんですが、みんながみんな、同性婚とか制度や権利などに対して意欲的な姿勢を見せているわけじゃなくて、割と日々を生きるのに必死な人たちが多いんです。そんな自分の身近な世界も社会の縮図だったりするわけで、みんないろんな生きづらさを抱えています。そんな状況の中で、「当たり前の範囲」を広げていきたいんです。SNSやバー、クラブ、サークルなど、当事者が集まる場所はいろいろ確保されてきてはいますが、それを隔離するようにはしたくない。当事者以外の人も集まれっていうんじゃなくて、二丁目や当事者の集まる場所じゃないところにも、当事者としていていいんだよって伝えたい。そういう人の「意識」のところは、自分の発信で変わっていくんじゃないかなと思っています。


――『東京レインボープライド』に来たことがないそうですが、今春もありますので、ぜひ、遊びにきてください。

もちぎ:はい、うかがいたいと思います。自分の場合、顔を出さず匿名で活動しているわけですが、別に身元を明かさなくても発信はできますし、読者の信頼を獲得してきました。なのでこれからも、インターネットメディアの匿名性を利用して、このアイコンを使ってどんどん発信していきたいと思っています。

取材・文/山縣真矢




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「『僕が夫に出会うまで』著者・七崎良輔さんに聞く」
https://trponline.trparchives.com/magazine/book/14771/


●ダ・ヴィンチニュース(2020.1.16)

「ゲイ風俗のもちぎさんって、実在するの……? 謎の腹面作家・もちぎさんに、過去のことや現在の暮らしについて聞いてみた」
https://ddnavi.com/interview/588067/a/


●パレットーク(2019.7.18)

もちぎさんと7/21参院選について話してみた「あたいが日本の首相になったら…」https://note.com/palette_lgbtq/n/n4a6e81a5b541

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