ジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』(白水社)は、熱狂的な宗教信者の母親に育てられたレズビアンの自伝的小説です。
仲良くなった女の子とキスしていることがバレて、教会からも追放され親子関係が切れますが、主人公はたくましく生きています。大人になってから実家に帰ってきた主人公を、母親は何もなかったようにもてなしますが、やっぱり居心地が悪い。作中にはこうも書かれています。
「世に中には、食べないケーキは取っておけると思っている人もいる。でも取っておいたケーキは腐り、それを食べれば命取りになる。久しぶりに帰った故郷は、きっとあなたを狂わせる。」(p.255)
そして前回も紹介したキム・ヘジン『娘について』(亜紀書房)をもう一度紹介させてください。こちらは、母親の視点から描かれた作品です。
仕事と住むところがなくなった娘とその恋人が、実家に戻ってきた。夫の闘病中から一生懸命無視してきた娘の恋人です。女3人、ヒリヒリするような同居生活が始まります。でも、母には、母の人生と価値観が確かにあります。別に娘の性的指向を積極的に歓迎するわけじゃないけれど、社会の中で圧倒的に弱い老婆として、女たちと手を取り合って生きてゆくことを選ぶのです。
今回はたくさん紹介してしまいましたが、いかがでしょうか。気になる作品がありましたら是非手に取ってみてください。
あと個人的には、若いレズビアンやトランスジェンダーのしんどい親子関係の話があまりないなと思います。作家、翻訳家、出版社のみなさん、よろしくお願いします! 首を長くして、お待ちしております!!
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ノンセクシャル、アセクシャル など、セクシャル・マイノリティと呼ばれる人々が登場する小説を応援する会、読書サロンを主宰。月に1回、都内で読書会を開催。