ゲイ小説とかも読みます?
 まず伏見憲明さんの『百年の憂鬱』(ポット出版)がすごく良いと思う。
 うん、私も大好き。あれ。
 いいよね、後になってわかったんだけど、ほとんど私小説的なのね。そうそう。新潮新書の『新宿二丁目』(新潮社)も合わせて読むと、よくわかると思う。二丁目の歴史も、仮の名前を使っていたとしても、小説の中に刻印されていて、そういう小説は貴重だなと思う。なによりも、本当のゲイの人たちが書かれている。BLとかじゃなくてね。ちょっと残念なのがトランスジェンダーを書く小説がまだあんまりないような気がして、なんかあります?
 んー……。

伏見憲明『百年の憂鬱』(ポット出版)

伏見憲明『新宿二丁目』(新潮社)

 トランスジェンダーの作家、藤野千夜さんが『夏の約束』(講談社)で芥川賞(1999年下期)を取ったよね(追記:藤野さんの自伝的小説『編集ども集まれ!』〈双葉社〉では、主人公がトランスしていく過程も描かれている)。
 この前読んだけど、『夏の約束』って主人公はゲイカップルで。と言っても群像劇的なものなので誰が主人公なのかあまり言いづらいんだけれど、一番紙面を占めるのがゲイカップル。で、一応MTFのトランスジェンダーも登場してくるんだよ、ひとり。その人がキャンプに行こうって言い出し、犬の散歩の最中に夫婦げんかに巻き込まれて、飛んできた鍋にぶつかって最後は入院しちゃうんだけどね。『夏の約束』は日常的すぎて、少しは生きづらさみたいなものに触れたりはするんだけど、あんまり前面に出てこなくて、意図的に削除しているように思う。やっぱり日本の作家にはそういう傾向があると感じる。だからもうちょっと、しっかり書くような小説が出てもいいんじゃないかな、と。
 いま、乙武洋匡さんが杉山文野君の体験を元に小説『ヒゲとナプキン』を書き下ろしているよね。今、noteで公開している。
 FTMの子に生理が来てしまった、その感じとか、彼女との初体験の感じとか、書かれているんですよね。
 そうみたい。本になったら読もうかなって。最近、文野君、抜け毛が気になってるみたいで、『ハゲとタンポン』ってタイトルのほうがいいんじゃない? って、この前、笑い話をしたんだよね(笑)。
 『ヒゲとナプキン』は、これから楽しみですね。トランスジェンダー関係だと私はやっぱり、漫画が良いと思う。志村貴子の『放浪息子』(エンターブレイン)とか。BLだけど秀良子『宇田川町で待っててよ。』(祥伝社)は女装して渋谷で遊んでいたのがばれちゃう男の子の話。漫画、クィアなところに、すごく切り込んできてるなって思う。小説よりも、良い物語がたくさんある。小説好きとしては、残念なところではあるんだけど。

志村貴子『放蕩息子』〈全15巻〉(エンターブレイン)

秀良子『宇田川町で待っててよ。』(祥伝社)

 そうだね、当事者が書いてる漫画もあるけど、小説はあんまりないよね。日本以外の小説では、キム・ヘジン『娘について』(亜紀書房)は是非読んでほしい。あと台湾の白先勇『孽子』(国書刊行会)はやっぱり推したい。ゲイの小説の中でも、これは特に好きなんです。
 アメリカやヨーロッパの作品はどうですか?
 アメリカはそんなに触れてないです。ティーヌさんが好きなジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』(白水社)は、読んでみたけれど、やっぱり、ちょっと文化的な隔たりがあって。キリスト教社会の中のことを知らなすぎて、壁を隔てられているような気がして、私的にはあまり入ってこなかったですね。

白先勇『孽子』(国書刊行会)

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