山 今年はストーンウォール50周年ということもあって、いろんな国のパレードに参加していてね。その場に身を置いてみると、言葉もわからないし、文化もスタイルも違うけれど、それでもつながれるおもしろみや連帯感みたいなものを感じたんだよね。世界中にはいろんな人権課題がある中で、民族も人種も言葉も障害の有無なども超えて、そうやってつながれるっていうのは、LGBTの大きな特徴なんだと思う。それって戦略としてうまく使っていけば、とても有効なのではないか。例えばTRPは、ここ数年でわっと参加者が増えたりして、結構周りからうまくいっていると言われることもあって、LGBTとは別のマイノリティの人権活動をしている人が参考にしたいとTRPに参加したり、話を聞きに来たりすることもある。とはいえ、まだまだ日本のLGBT運動は歴史も浅いし、同性婚などの大きな成果を達成したわけでもなく課題山積ではあるのだけれど、今のこの状況については自覚的で、LGBTの特徴を生かすことで、そこから敷衍して、LGBT以外のイシューについても何かこう、突破口というか、そういう役割を担えたりもするんじゃないか、そんなことをおぼろげながら考えたりしていて。それこそ韓国や台湾のプライドパレードに毎年参加していると、どんどんどんどん親しくなってゆく。その「親しさ」っていうのは、単なる「友達」っていうのではなく、各々の国でパレードの主催者として、LGBT当事者として活動しているもの同士の共闘意識というか、良い意味でのライバル意識も含めた連帯意識で、そこにおいては言葉の壁はあまり関係なかったりする。だから、例えば、今の日本と韓国のように、国家間の関係があまりよくない状況の時に、というか、そういう時こそ、そういうつながりを持っていることはとても重要だし、「LGBT連帯幻想」を戦略にする、というのは、まさにこういう時にこそ有効なんだろうなって思う。レインボーフラッグ一つとっても、それが掲げてあるだけで、いろんな物事がわかり合えたりするわけだしね。
テ うんうん。
山 でもね、ティーヌちゃんが言った違和感は、ちゃんと感じていたほうがいいとは思うよ。それを自覚した上で、戦略として「LGBT」を使っていく。使いようによってはすごく世界が広がるし、逆に、日本が人権施策において、特にジェンダーの平等やLGBT施策で、欧米と比べてどれほど遅れているかということを突きつけられたりもする。G7で同性婚ができないのは日本だけなんですよとか、あるいは、ジェンダーギャップ指数ランキングで日本は110位でねとか、インタビューとかで自虐的に話したりするんだけど、欧米からのまなざしは実はかなりシビアだったりもして、だんだんシャレにならなくなってきているようにも感じてる。ベルリンのパレードに参加したときに、台湾のグループに混じって少し歩いたんだけど、彼らは同性婚法制化を祝う横断幕を掲げていて、ベルリンの人もみんなよく知っているから、「Congratulation」「おめでとう」という沿道からの祝福の声援がものすごくてね。同じアジア人として嬉しかった半面、ちょっと羨ましかったり悔しかったり複雑な感情が湧いてね。
第9回:[特別編]李琴峰さんインタビュー〈後編〉
2019.09.11