李 私がまだストンウォールとはなんぞや、レズビアン、LGBTとはなんぞやってよくわかってない年頃から、ストンウォールという固有名詞は、中国語としてだけど、知っていたんですね。アメリカのニューヨークの小さなパブで50年も前に起こったことではあるけれども、世界中に拡散しているという力は確かにあって。そういう意味では本当にいろんな国のLGBTが、あるいはそういう人権の問題が、地続きにあることは確かなことだと思う。だからといって全ての国・文化の特性を持ってして、全て同一視して、連帯できるような幻想に浸ってていいのか。もちろんそうではない。さっき山縣さんが言ったったように戦略として使えるものは使ったほうがいい。やりたいことは正しいことなので、正しいほうに向かっていれば、それは戦略としておおいに使っていいと思うし、それぞれの国、それぞれの文化におけるストンウォール事件が必要だと思うんですね。
テ うんうん
李 その中で個人がどうやって闘うかというのは全部アメリカにならう必要はないんだけど、LGBTという大きい旗は使ったらいいと思う。小説の話に戻すと、綿矢りささんの『生のみ生のままで』の中にこういうシーンが出てくる。女性同士のカップルがハワイ旅行に行こうとして、スーツケースベルトを買おうとする。二人で一緒に行った空港のショップでベルトを選んでいる時、主人公の一人が、7色の虹のものを指して「これにしようよ」と言って、もう一人が「えー、他のが良い」と。「アピールはしない主義だから?」って聞くと、「主義とか関係ない」「私は単色の淡い色が好き」と。それで薄い緑色のベルトを選んだ。そのシーンを、綿矢さんは意識的に入れていると思うんですね。小説家の仕事というのは今の社会の既存のものに迎合したり、そのまま使うわけじゃない。それをするのが小説の仕事じゃないからこそ、綿矢さんはあえて、レインボー的なものやレズビアンという言葉、アイデンティティという言葉を使わないで、個人の関係として描こうとしている。だからそういう小説になった。それはそれでもいいんだけど、でもそれだけじゃないとも思うんです。
テ うん。
李 『独り舞』のなかでも、主人公が日本のパレードに参加してある種の安心感を持つんだけど、それでも確実に連帯できないもどかしさを抱えて。あるいはシドニーに行ってパレードを見て、いいなあと思いながらも、ここは自分の場ではない、ここは安心感がない。そういったもどかしさも、ティーヌさんが言ったもどかしさにつながるんじゃないかなと思うんですね。どうですか?
テ そう! そう思う。
李 だからそういうものを、小説でもエッセイでもどんなものでもいいんだけれど、言語化して書いていかないといけない。完全に個人の問題ではない。かといって、無条件に連帯できるかというとそうでもない。そういうもどかしさも、セクシュアル・マイノリティにとって大きな問題だと思うんです。
テ なるほど。ありがとうございました。最後に、イベントのお知らせを。
李 9月13日(金)に、台湾の作家・陳雪さんを招いて、松浦理英子と対談するイベントをやります。陳雪さんのデビュー作『悪女の書』は、台湾のレズビアン文学の頂点と言われていて、彼女自身もレズビアン当事者で、同性婚している人です。その2日後には、早稲田大学で、私が陳雪さんと対談します。
テ 楽しみー。
李 あとね、今書き終わった小説が、たぶん来年の初め頃に出ると思います。書き下ろしの小説で、新宿二丁目を舞台にした連作短編です。
テ 楽しそう! 是非それが出たらまたインタビューを!
山 伏見憲明さんとの対談もいいかもね。
李 いいですね。
*2019年8月11日/東京「GLOCAL CAFE AOYAMA」にて。
【イベント紹介】
■9月13日(金)
『【講座】台湾カルチャーミーティング2019年第2回イベント
「セクシュアル・マイノリティを書くということ:
台湾文学と日本文学の対話
――陳雪さんと松浦理英子さんの台日作家対談」』
時間:18:30〜20:30(18:00開場)
場所:台北駐日経済文化代表処/台湾文化センター
(港区虎ノ門1-1-12 虎ノ門ビル2階)
定員:80名(予約制)
料金:無料
ゲスト:陳雪(作家)、松浦理英子(作家)
司会:李琴峰(作家・日中翻訳家)
●https://jp.taiwan.culture.tw/information_34_101125.html
■9月15日(日)
『講演・対談
陳雪 × 李琴峰
何が描かれるべきなのか?
――セクシュアル・マイノリティ文学再考』
時間:13:30〜18:00
場所:早稲田大学戸山キャンパス33号館第1会議室
料金:無料
出演:陳雪(作家)、李琴峰(作家)
主催:早稲田大学文学学術院中国語中国文学コース
●https://www.waseda.jp/flas/hss/news/2019/09/02/5255/
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ノンセクシャル、アセクシャル など、セクシャル・マイノリティと呼ばれる人々が登場する小説を応援する会、読書サロンを主宰。月に1回、都内で読書会を開催。