今回は、アムステルダムで「LGBTour(LGBTツアー)」を実施しているSanne(サナ)さんを紹介したいと思います。
10年前に学業のために、地元であるEindhoven(アイントホーフェン)を離れ、アムステルダムに引っ越してきたそうです。それまでは男性とお付き合いをしていたとのこと。大学入学1日目に、「なんだかうるさくてうっとうしい女だな……」と思ったその子と恋に落ちるというドラマチックな学生生活をスタート。それまでは女性を意識したことは皆無だったけど……。これまでの「ストレート人生」から一転、女の子と付き合うようになって、いかに周囲が違う目でサナさんを見るようになったかを痛感。これまで男性と手をつないでも、ジロジロ見られることも、罵声を浴びせられることもなかったのに、相手が女性となったとたんに、街中での異変に気付きます。友人も「理解」は示しながらも「髪の毛をあまり短くしないほうがいいわよ」と言ってきたり、周囲の同性愛者に対する偏見を感じ取ったとのこと。この経験が、彼女がLGBTツアーを始めるきっかけになったそうです。
サナ:2017年10月に、LGBTツアーを発足させました。主にAirbnbやインスタグラム、Facebookでプロモーションを行っています。世界各国から問い合わせがありますよ。アムステルダムはLGBTにとっては、人生で一度は行ってみなければならない地ですから! 中国、韓国からの観光者も案内しました。日本人は一人いたかな……。ツアーは英語で、1時間半。アムステルダムの街中を徒歩で行くツアーです。アムステルダムの市街を巡るのは、徒歩か自転車が一番です。ただ、私が案内するところは自転車じゃなくて、徒歩が適してますね。観光客も多いし、歩道ばかりの狭い道ばかりだから。
由梨:アムステルダムのどんなところが見どころですか?
サナ:LGBTツアーは、歴史的な場所をめぐるツアーというよりは、LGBTにゆかりのあるお店、レストランやバーを巡るツアーです。私のおすすめは、Zeedijk (ゼーダイク)という通り。中央駅からも近いゼーダイクには、Red Light District (飾り窓)などもあるし、夜になると観光客も多くなります。SEXショップもたくさんあるね(おもちゃや下着などを売るお店)。一番押しのお店はGetto(ゲットー)かな。
由梨:あ、そこは私もよく行ってた(今は子供がいて夜出かけられない……)。私がアムステルダムに引っ越してきて、初めて一人で入ったバーだわ。あそこのハンバーガー、すごくおいしいよね。
サナ:そうなの! 猫がいたりして、いい雰囲気よね。ゲットーは一人でも入りやすいし、昼も開いてるし、そこから他の店へのアクセスもいいからとってもおススメです。カウンター席とテーブル席もあるし。
由梨:ゼーダイクと言えば、アムステルダムで最古といわれるゲイバーもあるよね。
サナ:Café 't Mandje(カフェ・マンチェ)ね。ここも行ってみるべきね。すごくアムステルダムっぽいお店。こぢんまりしてて。一人で入るのはちょっと……と思うかもしれないけど、ぜひ入ってほしい。オランダ語の歌詞カードが置いてあったりして、お客さんみんなで歌いだしたりするし。
由梨:日本でいうところ、歌声喫茶(死語?)みたいなお店だね。
サナ:マンチェは有名で、最古のゲイバーと言われていて、アムステルダム・ミュージアムの中には、マンチェを再現したお店もあるくらい。一度は行くべきお店ね、アムステルダムに来たら。
由梨:案内するLGBTツアーのお客さんとは、どんなふれあいがあるの?
サナ:ただ街中を案内するだけじゃなくて、お客さんの出身国でLGBTはどんな不自由があるのかとか、あとは個人的なカミングアウトの話とか、いろいろ話します。私自身も大学生になってから女性と恋に落ちた経験もあるし、それまではストレートとして生きてきたわけで……。今は大学時代とは違う女性パートナーがいるけど、私にとってのLGBTツアーは、単なる観光案内ではなくて、人と人とのつながりを持つための、そしてアムステルダムの魅力を知ってもらうためのツアーだから。
由梨:なるほど。
サナ:元ストレート、という表現が正しいかどうかは別として、私はかつて男性とお付き合いをしていて、ひとたび女性と付き合いだしたとたんに景色がガラっと変わったの。多くのLGBTの人たちが時間をかけて体験していくことを、私は1日にして「ドドっ」と痛感した、みたいな。それで、これはどうにか、何かしなきゃ! と思って、このツアーをやりだしたの。ただのツアーじゃなくて、もっと個人的な、ストーリーを含んだツアーにしたいと思って、お客さんとの会話とか、そういうのを大事にしてる。
由梨:オランダというと同性愛者に対する理解が深いというイメージがあるけど、そういいことばかりではないものね。
サナ:そう。私も経験したけど、同性愛は「いいん“だけど…”」、と「だけど…」がある。例えばゲイの男の子でも、マッチョだったりいわゆる「男らしいゲイ」は大丈夫。だけどちょっと女性っぽい仕草や話し方が出ると拒否反応を示す人もいるし。ゲイバーの外で罵声を浴びせられることもあるしね。
由梨:私も見たことある。レズビアンで、いわゆるダイク(男の子っぽい髪形や服装)だとからかわれたりね。
サナ:まあ、頻繁にあるわけじゃないけど、女性同士で手をつないでいるとジロジロ見られたり。
由梨:私なんて、若い女の子同士が手をつないでいたり、キスしてたりすると、「ああ、時代は変わったわ、うれしいわ……」って気しかしないけどね。
サナ:確かに状況はよくなってはいるけど、オランダだからすべて素晴らしい、ってわけではないわね。ま、真面目な話はいいとして。
由梨:いいのかい!
サナ:ナイトライフはやっぱり楽しいよね、アムステルダムは。クラブだと、私はChurchがいいかな。音楽もいいし、イベントも多いし。行く前にイベントカレンダーを調べてみるべきね。
由梨:私が出歩いていた5年前とかには、NYXで遊んだりしてたけど。
サナ:由梨、今ではあそこは、若いストレートの子たちのたまり場と化しているのよ……。
由梨:えー! そうだったのか。確かに、あの頃もストレートの女の子が多いなあと思ってたけど。
サナ:そう、男を気にせず、女同士で楽しく踊れたから。それを目当てにした男の子たちが来るようになって、最近はストレートが多くなってきちゃったの。だから、LGBTの子たちはChurchに流れてる。
由梨:そうだったのね……。サナ、最後に日本のLGBTの人たちにメッセージを!
サナ:ぜひアムステルダムに遊びにきて! 8月にはプライドもあるし、最高に盛り上がる時期よ。アムステルダムに来たときは是非、私のツアーを体験してみてね。
■関連サイト
●「LGBTour」公式サイト(ツアーの申し込みもできます!)http://sannepols.nl/lgbtour-english2
●「Airbnb」関連サイト
https://abnb.me/K84MV5I8NU
東京都台東区出身。2009年にエラスムス大学大学院留学のためオランダに移住。
2010年に同性パートナーとワシントンDC(アメリカ)で結婚。現在アムステルダム在住。3歳になる娘の子育てに奮闘しつつ、アムステルダム自由大学大学院にてHRマネージメントを勉強中。