みなさん、こんにちは。前回は父へのカミングアウトの話をさせていただきましたが、今回は、LGBTQ の社会人がオランダでどんな生活をしているか、についてです。前回の連載でも少し触れましたが、私は現在、大学院でHuman Resource Management を学んでいます。修士論文のテーマはLGBTQの人たちが、会社の中でどういう関係性を同僚と築くのか、です。12人のLGBTQの社会人をインタビューして気づかされたこと、自分の経験も含めてお話ししたいと思います。

私自身の経験からすると、日本にいるときもこちらで仕事をするようになってからも、基本的にはカミングアウトをしていました。読者の方で、友達にはカミングアウトしているけれど、同僚にはしていない、もしくはまったくカミングアウトをしていないなど、さまざまな環境にいる方がいると思います。第7回の連載でも書かせていただいた通り、カミングアウトのタイミングに正解はありません。私が会社でカミングアウトをした大きな理由は二つ。一つは、嘘をつくのが苦手で、かつ面倒くさいと感じたから。彼女がいるのに「彼氏」と置き換えたり、「付き合ってる人はいない」と言うことにも違和感があり、「彼氏とかいるの?」の質問には「彼氏はいませんが、彼女はいますよ」とさらりと言っていました。もちろん住んでいる地域や職場環境によって、これを「さらり」と言えるかどうかはかなりの温度差があることと思います。もう一つの理由は、自分が自分らしくいられない職場環境だと、作業効率が悪いと考えたからです。同性愛者である自分を「マイノリティー」と捉えると、まるで自分に何か欠陥がある、人とは違うと考えがちなので、自分を「みんなと同じ」と捉えることを、まずは自分から始めようと思ったからです。あまり自分を異分子みたいに扱うと、周囲の人にもそう見られてしまうかも? と考えました。

「彼女はいますよ」との返しに、否定的なことを面と向かって言ってくる人はいませんでした。もしかしたら陰で言われていたのかもしれませんが、私の耳に入らない限りはさして気にもならなかったので、比較的カミングアウトはスムーズでした。オランダに来てからは「私は同性愛者なんです」という形でのカミングアウトは一度もしたことがなく、「妻がいる」と言えば、「ああ、パートナーがいるのね」というふうに会話は進んでいきます。

私が論文を書くにあたりインタビューしたLGBTQの方たちは、多国籍で、レズビアン4人、ゲイ5人、バイセクシュアル1人、トランスジェンダー1人、クィア1人という内訳でした。彼らが働く会社は、いわゆるテック・カンパニーと言われる会社で、アムステルダムに大きなオフィスを構える国際企業です。年齢層は20代前半から40代半ばまで広がりがありましたが、12人全員が会社でカミングアウトをしています。この会社ではDiversity and Inclusion促進に特化したチームが結成されていて、LGBTQだけではなく人種や年齢、国籍などのさまざまな多様性を尊重しあうことを重要視した社内教育も活発に進められています。そうした努力もあってか、LGBTQの方たちはその職場環境にかなり満足している、という回答が多く聞かれました。その一方で、LGBTQとひとくくりのグループにはなっているけれど、その中でもバイセクシュアル、トランスジェンダーの人はマイノリティーの中のマイノリティーであり、自分たちがどう扱われるか、また理解されていないか、ということについて不満がある、という声も聞かれました。

インタビューした企業のトイレの表示。

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