前回は私の自己紹介と、どうしてオランダに住むことになったのかについて、書かせていただきました。プロフィールにもあるとおり、私たち婦婦(ふうふ)にはもうすぐ3歳になる娘がいます。この連載エッセイを読む皆さんの中に、すでにお子さんがいる、あるいは将来子供を持ちたいと考えている方がいらっしゃるかは分からないのですが、少しでも興味がある方たちのために、今回は、私たちが子供を授かることになった道のりをご紹介したいと思います。

その道のりは決して平たんではなかったのですが、オランダでは、生殖医療が保険でカバーされていて、金銭的な負担がほとんどなかったという点で、非常に助かりました。よくよく振り返ってみると、オランダで私たち同性愛者が子供を持とうとしたときに、異性愛者とほぼ変わらない扱いを受けていることに気が付きました。病院での対応も、特別扱いはありませんでした。待合室で、女性同士のカップルを見かけることもありました。

2016年の「King's day」での家族写真。現国王アレクサンダーの誕生日4月27日は「King's day」の祝日で、国中がオレンジ色に染まるオランダ最大の国民的イベントだ。

子供が欲しい!

10代前半の頃に、自分がほかの友達と少し違うことには気づいていました。しかしながら、それが一体どうしてなのか、何なのか、ということはよく分からずに思春期を過ごしました。10代後半になる頃にはインターネットが徐々に普及し始め、いろいろな情報が入ってくるようになりました。そんななかで、レズビアンであることを自覚し、ほかにも私みたいな人たちがいる、ということも知りました。

それと同時に、自分が男性と結婚して子供を持つということは、将来、確実にないだろうなという思いはあったものの、どうやってかは分からないけれど、いつか子供が欲しいという気持ちは常にどこかにあったような気がします。

20代前半の頃には、海外にはレズビアンでも結婚したり子供を持ったりする人もいて、私が将来なりたい自分の姿、理想像が現実の世界にあることも知りました。私が妻と出会ったのは31歳の頃でしたが、関係が深くなり、将来を一緒に過ごしたいと考えるようになってからは、お互いに子供が欲しいという気持ちがあることを確認しました。

ドナーはどうする?

私の周囲には、すでに子供を持っている、妊娠している、子供を授かる準備をしているなど、さまざまなカップルがいます。レズビアンだけではなく、私の親しい友人はシングルでストレートの女性(オランダ人)なのですが、子供が欲しいという気持ちが非常に強く、彼女はシングルマザーになる道を選択しました。

理由や環境はいろいろですが、ドナー選びも人それぞれの選択があります。私たち婦婦は、いろいろ話し合った結果、提供者は匿名ではなく、私たちの家族か友人など、将来子供にも紹介できる人にすることにしました。理由を書くと本当にいろいろあるのですが、突き詰めたところ、子供への出自の説明責任を果たしたい、という気持ちがお互いに強かったことがあります。

匿名提供の場合と、そうでない場合とでは、それぞれにメリットとデメリットがあります。私たちの場合は本当に幸いなことに、オランダ人の友人M君が、ほぼ「立候補」に近い形で精子を提供してくれました。M君には彼女がいます。その彼女もM君が精子提供することに賛成してくれたこともあり、さまざまな検査から、実際に子供を作るプロセスに至るまで、本当にいろいろとサポートをしてくれました。

「ストライダー(Strider)」という、オランダでは人気のペダルのない自転車のような乗り物(これで1歳過ぎから訓練し、3歳になる頃にはみんな補助輪なしで自転車に乗るようになる)。

同意書は?
将来も精子提供者の気持ちが変わらないという保証は?

私が知る限り、同性愛カップルの子づくりに関するさまざまな書類を整えてくれる弁護士がオランダには数名いらっしゃいます。その中でも有名なある弁護士に、書類作成をお願いしました。その弁護士さん自身もレズビアンであり、パートナーの方との間にお子さんが2人いらっしゃる、という点も非常に心強く感じました。子供の命名権、面会に関する取り決め、法的な同意などの細かな項目をM君と一緒に協議して、書類を作成・署名し、子供が生まれる前に用意しました。

M君は、「僕は精子提供はするけれど、由梨たちと子供をつくる、という考えではない。あくまで子供は由梨たち婦婦の子供であり、僕は精子提供者以上でも、それ以下でもない」という立場でした。これは私たちが望む形での提供であり、M君とは数年来の友人であったこともあり、また最近、彼と彼女にも子供ができたこともあり、1か月に1回は行き来する仲が続いています。

「精子提供者の気持ちが変わらないとも限らない」という指摘もあります。おっしゃるとおり、100%確実な将来はありません。むしろ、そのための同意書であり、遺伝学的に関係性があるという事実は変わらないため、精子提供者のためにも、私たちの子供のためにも、しっかりと法的効力のある同意書が必要だと考えました。

子供、どうやってつくるの?

シンプルに言うと、M君の自宅で精子をカップに提供してもらい、それを受け取ってすぐに針のない注射器のようなもので、私の膣に注入する、という方法でした。オランダでは、年齢制限はあるものの、結婚しているしていないに関わらず(もちろんLGBTであるかどうかも制限にはならない)、生殖医療に保険が適用されます。

そのため、私たちもトライする前に総合病院に行って、婦人系器官を調べてもらい、「妊娠できそうかどうか」という判断を仰ぎました。もちろん、M君の精子も運動量や感染症がないかなど、調べてもらいました。そのうえで、生殖カウンセリングを受けたのですが、その段階では、「まずは自宅で6か月くらい試みてください。それでも妊娠に至らない場合は、その次のステップを考えましょう」とのことで、いわゆる、タイミング法(排卵期に合わせて精子を注入する)から始めることになりました。ちなみに、この生殖カウンセリングの時は、大学病院でこれまで扱ってきたレズビアンカップルの子づくりに関する知見なども共有していただき、精子提供者の選び方や子供ができたあとの付き合い方など、とっても勉強になりました。

オランダ特有の「バックフィーツ」(荷台がついている自転車)で、遊び疲れて寝てしまった娘。

そんなに簡単に子供ができるのか!?

医学的なコメントはできないのですが、私がトライし始めたのは35歳の時で、「高齢」と判断される年齢でした。そのためか、なかなか妊娠には至らず、また妊娠に至っても妊娠を継続できないことが何度か続きました。トライし始めてからは、パートナーとの関係がぎくしゃくする時期もあり(これについてはまた、別途書きます!)、一時期妊娠活動を中止したこともありました。いろいろな経緯があって、トライし始めてから2年ほどで、もうすぐ3歳になる娘を授かることができました。ここに至るまでサポートをしてくれた精子提供者のM君と彼女のSさんには、感謝しかありません。

今回は本当に大まかに、子供が欲しいと考えた時点から子供が生まれるまでの経緯を書かせていただきました。特に精子提供者をどうするか、という判断は非常にセンシティブなトピックであり、どれが正解ということはないと思います。それぞれの家族がそれぞれの思いで子供を持つことになり、中には養子縁組をするカップルもいるわけです。出会いと別れを経て、新しい家族が新しいメンバーを迎えることもあります。いろいろな家族の形があり、どれが一番とか、どれが正解ということはありません。私たちの願いは、これから成長する娘が将来、「お母さんたちのところに生まれてきてよかった」と思えるような、そんな子育てをしていくことです。

次回は、私たちの周りにいる、色とりどりの家族を紹介していきたいと思います!

■金 由梨
東京都台東区出身。2009年にエラスムス大学大学院留学のためオランダに移住。
2010年に同性パートナーとワシントンDC(アメリカ)で結婚。現在アムステルダム在住。2歳9か月になる娘の子育てに奮闘しつつ、アムステルダム自由大学大学院にてHRマネージメントを勉強中。

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