連載第7回、父へのカミングアウトの時もそうだったように、母へのカミングアウトについても、すぐに自分が「こうであってほしい」という状況にはなりませんでした。「誰かに認められたい」といった承認欲求を、身近な家族や友人に望むことは、ごく自然な感情だと思います。私と両親の関係性で言うと、いわゆる友達母子的な、フラットで緊密なものではありませんでした。母はあくまで母であり、父は父。上下関係というか、親と子。いろいろ話し合うような仲ではなかったけれど、それでもどこかで自分のことを認めてほしいという気持ちがありました。それは自分が同性愛者であるということだけではなく、勉強でがんばった、スポーツで結果が出た、といった日常生活面でのことでもありました。今となっては両親へのカミングアウトも笑い話ですが、当時の私にとってはとても心を悩ませる大きな葛藤でもありました。今まさに、そんな葛藤を持っている方たちへ。ずっとこんな苦しい状況が続くわけではないと思います。ただ現状を打破するには、自分をありのままに受け入れ、少しずつ殻を破っていく必要もあります。これは他人がやってくれることではなく、自分が乗り切っていかなければならないプロセスかもしれません。

もちろん、誰もがそうしたい(カミングアウトしたい)というわけではないことも理解しています。カミングアウトをしなければいけない、したほうがよいという風潮に、プレッシャーを感じる方々もいると聞きます。私はオランダに住むことで、日本にいる母との距離ができてしまいましたが、なぜか日本で一緒に生活している時よりも、いろいろと話せるようになった気がします。結婚したり、孫ができたり、話題が健康についてだったり……。お互い年を取った、ということなのでしょうか。ああ、いやだ。

ちなみに私には妹がいます。妹には、たしか私が高校生のころに「実は……」と告白してみたところ、「は? そんなの知ってたし(笑)」と軽くあしらわれてしまいました。このように、すでに周囲が気が付いている、というケースもあります。

私の経験は一個人のものであり、誰にでも応用できるプロセスではないでしょう。ただ、少しでも「参考」になればと思って、母へのカミングアウトの顛末を書かせていただきました。

公園の不思議な玩具。絵がシュール。

★金由梨さんに関する記事が「東洋経済ONLINE」で掲載されました。こちらも合わせて読んでみてください。
https://toyokeizai.net/articles/-/290176

■金 由梨
東京都台東区出身。2009年にエラスムス大学大学院留学のためオランダに移住。
2010年に同性パートナーとワシントンDC(アメリカ)で結婚。現在アムステルダム在住。アムステルダム自由大学大学院にてHRマネージメントを勉強している。3歳になる娘と、5月に出産したばかりの第二子と、二人の子育てに奮闘中! 
1 2 3
<

バックナンバー