先日大学院に授業を受けに行った日のこと。教授が「赤ちゃんを授業に連れてきていいよ」と言ってくれているので、ベビーシッターを頼まずに連れて行っています。授乳していることもあり、シッターを頼むむずかしさを、最近出産した教授も理解してくれての配慮です。前のクラスが終わるまで教室の外で、下の娘を抱いて待っていました。すると。「かわいい~。何歳ですか?」「まだ4か月なんだよ」。たわいもない会話をする中で、声をかけてきた彼女が言いました。「私には母が二人いるの、レズビアンなんですよ」「!!」。20歳前後の聡明で活発そうな彼女。「そうなの? 実は私には奥さんがいて、上の娘はもうすぐ4歳になるの」「え!そうなの!?」。そんな会話を交わしているうちに、彼女は言いました。「人生の中で、私は何度も父親がいないことは悲しくない? と人に聞かれた。父親がもともといなくて、母が二人いるんだから、父親がいないことの悲しみなんて、分かんねーっつーの(笑)」「そっか、そうだよね」「私を大事に育ててくれてる母が二人いて、私はこれ以上の幸せを願ったことはないわ」。私はその場で、「私の娘たちがこんなふうに自己肯定感を持って、自分の家庭が幸せな家庭だと思えるよう、頑張るぜ」と心に誓ったのでした。さすがアムステルダム。教室の外での立ち話が、こんな感動とインスピレーションをくれるとは。
この連載がみなさんの目にふれるころ、おそらく私たち家族は日本にいます。日本滞在中には、娘に日本の幼稚園を体験させてあげたいので、日本の幼稚園にも数週間ではありますが通わせる予定です。その際にはしっかりと、幼稚園の先生にも私たち家族のことを説明するつもりです。オランダでも日本の幼稚園に週1回通っています。その際に、家族表を提出しました。母親と父親の名前を書く欄がありました。父親母親としてベネッサの名前を書き、幼稚園の先生にも説明をしました。「あ、そうなんですね、分かりました」。以上。日本の幼稚園の先生がどんな対応をしてくれるか、楽しみです。私たちのような家族が現実にいる、ということを知ってもらうことはとても意味のあることだと思います。「メディアで見たり聞いたりしたことはあるけど、現実にこういう人たちがいる」と実感してもらい、身近にいるんだ、ということを感じてほしい。小さな一歩ではあるけれど、大きな変化はどれも、小さなステップの積み重ねだと思います。
日本の各地の自治体で、同性パートナーシップ証明制度が進められています。素晴らしいことだと思います。もちろん結婚とは違う制度ですが、同性のパートナーが、パートナーであるということを、公的機関が認めることにはとても意味があることだと思います。LGBTQI+ コミュニティーを取り巻く環境が変化しつつある日本に行くことを、楽しみにしています!
■金由梨さんとTRP共同代表理事の杉山文野が、トークイベントを行います。ぜひ起こしください。
『オランダ&日本のLGBT子育てトーク』
日時:11月7日(木)19:30〜21:30
場所:subaCO(原宿)
東京都台東区出身。2009年にエラスムス大学大学院留学のためオランダに移住。
2010年に同性パートナーとワシントンDC(アメリカ)で結婚。現在アムステルダム在住。アムステルダム自由大学大学院にてHRマネージメントを勉強している。3歳になる娘と、5月に出産したばかりの第二子と、二人の子育てに奮闘中!