外国人パートナーとの婚姻の可否問題

 同性婚法の起草段階からもっとも問題になってきたのは、台湾人が外国人の同性パートナーと婚姻することは可能なのかであった。たとえば、台湾人の同性パートナーがいる日本人は、台湾に行けば台湾人と結婚できるのかどうかという問題である。これは渉外的婚姻の準拠法(異なる国の人の間の関係につき、どこの国の法律にもとづいて婚姻を成立させるか)の問題であり、同性婚法には婚姻の準拠法について特別な規定がないため、渉外民事法律適用法という準拠法を決める通常の法律(国際私法)によることになる。
 この法律によれば、婚姻の成立要件(年齢、性別、禁婚範囲など)、方式については、各当事者の本国法によるとされている(46条)。これを同性婚に当てはめると、両当事者の本国法(国籍のある国の法律)で、ともに同性婚が法制化されている場合に限り、婚姻が可能となる。従って、台湾人は同性婚が法制化されていない国の国民である日本人の同性パートナーとは婚姻できないことになってしまう。このルールのもとでは台湾人は、すでに同性婚が法制化されている27か国の同性パートナーとだけ結婚できることになる。
 これでは同性婚法のない国の国籍をもつ外国人の同性パートナーをもつ台湾人は、法律ができても結婚することができないままとなってしまう。こうした残念な結果を回避するために、本法の審議段階では渉外民事法律適用法46条の1を追加し、同性婚をまだ法制化していない国(たとえば日本!)の同性パートナーとも婚姻登録できるように立法措置を講じる時代力量(第三勢力の野党)による臨時動議が出さていた。しかし、本体の法案の成立を優先させたい与党、民進党すら反対に回ってしまい、賛成票わずか6票であっさり否決されてしまった(2019年5月17日)。(*1)

[*1]「跨国難同婚 500対伴侶卡関 祁家威再披戦袍」蘋果日報ネット版2020年2月20日参照。
https://tw.appledaily.com/local/20200220/D5BKZOXGJHWFQKNJG42E3TS4Z4/


「1国4制度」の渉外同性婚

 こうして外国籍の同性との婚姻の可否は、相手の国籍によって以下のように4つのケースに分かれることとなった(「1国4制度」:1つの国に4つの制度の併存)。(*2)

【同性婚をめぐる1国4制度】


 結局、せっかく台湾では同性婚法が施行されたのに、相手が外国人の場合には相手の国でも同性婚が法制化されていなければ、同性間で婚姻することはできないこととなる。日本や中国をはじめとする外国籍の同性パートナーとつきあう多くの台湾人は、依然として結婚できないし、その外国籍のパートナーが台湾で配偶者としての在留資格を得ることもできない。こうして約500組の国際同性カップルが、婚姻することができずに苦しんでいるといわれている。

[*2]簡至潔・許秀雯「同婚通関後、仍不知何処是盡頭:跨国同婚何解」聯合新聞網2019年8月5日参照。
https://opinion.udn.com/opinion/story/10124/3970652

[*3]台湾では在留資格取得などの目的のための偽装結婚を防止するため、東南アジア、南アジア、西アジア、アフリカの21か国の人と婚姻する際には、当該外国法によりまず婚姻をしたうえで、駐当該国台湾在外公館での面接を義務づけている。


法解釈による解決のアイディア

 伴侶盟は渉外民事法律適用法を以下のように解釈すれば、法改正がなくても、これを突破できると解している。渉外民事法律適用法8条では「本法にもとづいて外国法を適用した際に、その適用の結果が中華民国の公共の秩序又は善良なる風俗に反する場合には、これを適用しない」と規定している。これは一般に国際私法でいう公序違背による外国法の適用除外という制度であり(日本の「法の適用に関する通則法」42条も同趣旨)、同性婚を認めない外国法を台湾の公序に反するとして、その適用を排除することを説くものである。いまどき同性だからといって婚姻を認めないなんて、公序良俗に反するというののであり、可能な解釈であろう。
 しかし、異性婚について行っている駐当該国の在外公館で面接を必要とする実務(「1国4制度」のケース3の場合)を同性婚にも適用するとなると、現行法のもとではどうしようもない。大法官の口頭弁論(2017年3月24日)で台北市政府の代理人として違憲論を展開した廖元豪准教授(政治大学法学院)は、以下のように言う。「同性婚は憲法により保障された基本的人権です。しかし、現状では一部の人間は結婚できるが、一部はできない。これでは結婚したい台湾人の権利に影響するばかりか、国籍による差別的扱いにもなり、違憲の疑いがあります」。(*4)

[*4]前掲註1。


訴訟の提起

 伴侶盟では現在、この外国人同性パートナーとの結婚平等を活動の重点にすえ、いくつかの行政訴訟を準備している。

外国人同性パートナーとの婚姻を訴える伴侶盟の皆さん@中央廣播電台

 

 マレーシア人、香港人、マカオ人などのパートナーとの結婚を求めている4組の同性パートナーが原告になろうとしている。彼女ら(彼ら)は結婚の登録を拒否され、それに対する行政不服審査でも登録が認められなかった末に訴訟に踏み切っている。
 このように台湾では同性婚法が施行され、すでに3,000組を超える同性カップルが婚姻を成立させているが、異性婚との間にはまだ多くの違いが残っていて、訴訟も提起されようとしている。完全な平等を求める運動はまだ終わっていないのである。

台北市中正戸政事務所で婚姻届を出そうとする阿古さん(左:マカオ人)と信奇さん(右:台湾人)@中時電子報


立法院前で外国人との同性婚を求める同性カップル@聯合新聞網 

 

■鈴木 賢
1960年北海道生まれ。明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。ゲイの当事者として1989年から札幌で活動を始める。レインボーマーチ札幌を創始。現在「自治体にパートナーシップ制度を求める会」世話人、北海道LGBTネットワーク顧問。

1 2 3
<

バックナンバー