台湾の違憲審査制

 台湾同性婚法の制定は、2017年5月24日に大法官会議によって示された「司法院釈字第748号解釈」が決定づけた。大法官とは台湾の国家機構において憲法裁判所としての役割を担う機関で、憲法の解釈、法律解釈の統一などの権限を行使する。法律と憲法との適合性を判断し、違憲の法律の効力を否定する権限をもつ。大法官会議は司法院[*1]のもとにおかれ、総統によって指名され、立法院の承認を経た15名の裁判官(大法官)から構成される。任期は8年で再任はない。日本の最高裁とは異なり、通常の訴訟事件は担当しない特別の憲法裁判所である[*2]。

 台湾の大法官が日本の最高裁判事と著しく異なるのは、判事のバックグラウンドである。2017年5月の時点で、15名の大法官のうち、司法院長の許宗力をはじめ7名が法学者で、実務家の8名(裁判官4名、検察官2名、弁護士2名)と拮抗している。日本の最高裁判事で学者出身者は、現在、わずかに1名にとどまるのとは対照的である。さらに学者出身の大法官のほとんどが、ドイツ、アメリカで博士学位を取得して帰国した者で、外国法に通じている。こうした大法官のバックボーンは、748号解釈にも反映している。

 大法官はこれまでも大胆な憲法判断によって、台湾の民主化、人権・自由の保障、進展において積極的な貢献をしてきた[*3]。台湾の大法官には人権の守護神としての自覚が伝統的に備わっていた。これが同性婚問題でも大いに発揮されたのである。

[*1]台湾の中華民国憲法は国家権力を5つに分かち(五権憲法)、5つの国家機関を設置する。司法院は立法院、行政院、考試院、監察院とともに五院の一角を占め、裁判所を統轄する。
[*2]大法官制度については、鈴木賢「台湾における『憲法の番人』――大法官による憲法解釈制度をめぐって」今泉慎也編『アジアの司法化と裁判官の役割』アジア経済研究所、2012年、23頁以下参照。
[*3]大法官が果たしてきた歴史的役割については、翁岳生「司法院大法官の解釈と台湾の民主政治・法治主義の発展」日本台湾学会報13号(2011年)135頁以下(http://www.jats.gr.jp/journal/pdf/gakkaiho013_08.pdf)参照。

日本植民地時代に総督府高等裁判所として建てられた司法院の建物。

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