伴侶権益推動連盟の発足と多元的家族法案

 こうした状況に変化をもたらしたのは、婦女新知基金会の「多元的家族チーム」を母体として、2009年に台湾伴侶権益推動連盟(伴侶盟)が誕生してからであった(沈秀華「婚姻平等化における台湾女性運動の貢献」日本台湾学会報21号、2019年、101頁参照)。許秀雯ら弁護士を主要メンバーとして加えていた伴侶盟は、2012年7月に「多元的家族法案」と題して、以下の3つの法案を起草し、公表した。それは「婚姻平等」「伴侶制度」(パートナーシップ制度)、「多人家族」(一対一の関係にとらわれない契約的親密圏)であった。

 

パートナーシップ法に反対する記者会見を開く婦女新知基金会(2017年3月7日)

 家父長的な婚姻、家族制度を女性抑圧の根源として闘ってきた女性団体に根をもつ伴侶盟は、同性間の婚姻を同性婚法ではなく、性別(生理、自認、戸籍)を問わない婚姻という意味で、「婚姻平等法」と呼ぶ戦略を選択する。婚姻平等草案は民法の家族法に対する改正案であり、合計82ヵ条からなる。婚姻、家族にかかわる異性を表す文言(男、女、夫妻、父母など)をすべて性別中立的な文言に変更し、同性ないし多様な性別の者の間の婚姻権を保障しようとするものである。性指向、性自認にかかわりなく、すべての性別の者に婚姻を開放し(性中立化)、平等に養子縁組することも認める。

 2つ目の法案はパートナーシップ法案で、やはり民法家族法の改正という形をとり、6ヵ条を改正し、1章を新設して13ヵ条を追加する。婚姻とは別の排他的親密関係を構築するもので、法的な地位はほぼ配偶者のそれと同様である。ただし、性愛を前提とする必要は必ずしもなく、子には嫡出推定が及ばないし、関係解消の手続などに婚姻との違いがある。財産制、相続、貞操義務などは、契約によって設定が可能とされる。フランスのパックスを参照したものと思われる。

 3つ目の法案は「家族制度」草案と題され、民法の8ヵ条を改正し、1ヵ条を削除するものである。台湾の民法には元来「家」の規定があり、これを拡充して、戸籍に登録することで一定の家族としての法的関係を発生させるものである。永続的な共同生活とお互いの助け合いを支える制度で、一対一の関係に限定せず、3人以上の者の間でも設定可能とされる。性愛とは無関係の親密圏の設定を認めるものである。

 「婚姻平等」法案は当事者団体が起草した最初の、同性間でも婚姻を可能とする民法の改正案として、その後、大きな影響を与えることとなった。これ以後、台湾の同性婚運動は、「婚姻平権」(婚姻の平等化)をスローガンとすることとなる。婚姻の覇権主義的地位の強化に与するのではなく、LGBTに対する差別をなくすことを期す意味が込められている点に留意すべきである。多元的家族の推進こそが目指されるべき方向であり、そのことは婚姻の性中立化と別にパートナーシップ制度と多人家族制度が、同時に提案されていることにも表れている。しかし、パートナーシップ法案と多人家族法案は、国会の審議にかけるうえで必要な議員の賛同が得られなかった。

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