尤美女、鄭麗君立法委員による法案提出

 伴侶盟による法案作成は国会議員を動かすこととなる。2012年12月には尤美女議員が、民法の3ヵ条だけを修正することで、同性婚を可能とする案を立法院に提出した。台湾民法の婚姻に関する規定のなかで、婚姻を明らかに異性間に限定していると読むことができるのは972条だけであった。そこで972条の「婚約は男女当事者が自ら執り行う」の「男女」を「双方」に変更するほか、男18歳、女16歳と婚姻適齢に違いがあるのを、18歳にそろえる改正を提案した。

 さらに、2013年10月には鄭麗君議員により3つ目の法案が提出された。これは尤案の3ヵ条をはじめ、民法の82ヵ条を改正するもので、伴侶盟草案を参考にしたものである。養子縁組の事前審査を行う裁判所は、性指向、性自認、性的特質などの要素を認可の基準としてはならないことが規定されている。

 これらの草案に関して公聴会が開かれ、賛成、反対両派の間で激しい議論が交わされた。国会で審議を担当した立法院の司法・法制委員会では、見解を統一させることができず、任期中に次のステップへ進むことはできずに、廃案となった。多数の議席を占める国民党議員の反対を押し切ることは不可能であった。

尤美女立法委員(中央)、沈秀華・婦女新知基金会元理事長(左)、筆者(右)

 

2016年の4つの法案

 2016年1月の総統、立法委員選挙が政治状況に大きな変化をもたらした。選挙期間中に婚姻平等への賛成を明確にしていた民進党の蔡英文が当選し、立法委員選挙でも史上初めて民進党が過半数の議席を獲得した。また、婚姻平等を強く支持する「時代力量」という新勢力が5議席を獲得した。そうしたなか各会派から相次いで、3つの法案が立法院に提出され、本格的な審議が行われることとなった。
●2016年総統選挙で蔡英文候補が婚姻平等支持を表明したCM
https://www.youtube.com/watch?v=ERzDKQ_mglc

 まず10月26日に時代力量が党として民法改正案を提出、11月2日には尤美女議員と国民党の許毓仁議員がそれぞれ改正案を提出した。3案はほぼ同じ方向を目指しているが、違いも見られる。時代力量案と許案は、「夫妻」を「配偶者」、「父母」を「両親」などに改め、性中立化を図っている。そのため改正条項が80ヵ条を超える。尤案はわずか3ヵ条を改正したうえで、「同性ないし異性の婚姻当事者には、夫婦の権利義務に関する規定を平等に適用する」(971の1条2項)という規定をおくことで、一括処理する。また、嫡出推定については、立場が分かれた。尤案は適用排除[*1]、許案は適用、時代力量案は元々の条文(1063条)に手を付けなかった。

 さらに、12月23日に民進党の蔡易餘議員が別バージョンを提出した。これは民法親族編の最後に第8章同性婚姻を加えるというもので、特別法派と民法派の折衷を図ろうとするものであった。

 司法・法制委員会は審議の結果、この4案を尤案に統合し、次の段階へと送ることとなった。もっともキーとなる971条の1は以下のように規定していた。

 1項「異性ないし同性の婚姻当事者には、本法およびその他の法規が規定する夫婦、配偶者に関する規定を平等に適用する」。
   2項「異性ないし同性の配偶者には、本法およびその他の法規が規定する父母子女、親族の規定を平等に適用する。但し、本法第1063条[*2]は異性の配偶者に限る」。

[*1]嫡出推定を同性婚には適用しないことにした理由を、尤氏は以下のように説明している。「同性愛者が結婚したのち、もし「嫡出推定」を適用すれば、結婚したレズビアンの一方が分娩したら、もう一方も当然に子どものもう一人の母親になります。もしある日、二人が喧嘩になったなら、一方は血縁証明証により、この子どもと血縁関係がないと証明することができます。すなわち、嫡出否認の訴えを起こすことで親子関係を否認することができることになります。これでは子どもと親の関係が不安定になってしまわないでしょうか」(尤美女「台湾における婚姻平等化への道」日本台湾学会報12号、2019年)。
[*2]民法1063条は嫡出推定の規定。

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