台湾LGBTパレードの政治性
台北のパレードは規模が大きいだけではなく、パレードの掲げるテーマが政治的である点も注目に値する。2012年には「革命婚姻:婚姻平権・伴侶多元」と同性婚法制化の要求を正面から打ち出し、2018年の同性カップルの法的保護の手法や性教育のあり方をめぐる国民投票(11月24日)の前には、「性平攻略由你説・人人18投彩虹」(ジェンダー平等戦略はあなたが決める、18歳になったらみんなでレインボーに投票しよう)と、国民投票における投票を呼びかけた。
今年も主催者や参加者は、パレードに思い思いの「政治」を持ち込んでいた。主催者が「同志」「好」「厝邊」「多元」「愛」「台湾」「民主」の文字が大きく印刷された7色のDMを用意し、参加者が自由に組み合わせてメッセージを発信していたことはすでに紹介した。台湾では2020年1月10日に総統選挙と国会議員(立法委員)の選挙の投票が控えている。これを意識して主催者は、パレードの3.6㎞地点で、「1/11回家投票、継続当個台湾人」(1月10日には実家に帰って、投票しよう。台湾人で居続けるために)と書いたプラカードを掲げていた。台湾では戸籍所在地でしか投票ができないので、まずは実家に帰ること。そして台湾の独自の地位を守るための投票行動する(親中国派には投票しない)ことを訴えたのである。主催者のフロートのボディには、「2020 守護台湾民主的関鍵時刻」(2020 台湾の民主主義を守るカギとなる時)とも書かれていた。
来年の総統、立法委員選挙において民進党などの本土派(緑陣営)への投票を呼びかけ、国民党への政権交代は中国による統一の危機を招くことを警告するものと解される。また、参加者のなかには「台湾民主撑同志、台湾同志撑香港」(台湾の民主主義はLGBTを支持する、台湾LGBTは香港を支持する)など、香港のデモへの支持を表明するものも目立った。中国の抑圧を受けて今やその自由、民主主義が危機に瀕する香港は、台湾人にとってもけっして他人事ではないのである。このように台湾パレードには実に赤裸々な党派的政治が持ち込まれていて、それはLGBTプライドとして当然のこととされているのである。
これに対して日本のLGBTプライドでは、例えば、TRPの2017年のテーマは「CHANGE :未来は変えられる」、2018年は「LOVE & EQUALITY :すべての愛に平等を」、2019年は「I HAVE PRIDE:あるがままを誇ろう」であった。立場の分かれうる政治的問題には踏み込まず、メッセージをあえて曖昧にする傾向があるように思える。台湾プライドを見てLGBT運動と政治とのかかわりについても考えさせられた。
政治リーダーからのメッセージ
蘇貞昌行政院長はパレードを控えた10月25日に、同性婚法施行5カ月経過を踏まえ、台湾語でビデオメッセージを流し、「台湾がさらに進歩し、さらに包摂的になることでこそ、我われにとってよりプライドの持てる国にしよう」と呼びかけた。
また、蔡英文総統はパレードの当日、彼女のFacebookで以下のようにメッセージを出した。
「あの日以降、私たちの元々の家族は変わらず幸せ。元々の婚姻も美しく、信仰も自由なまま……ただ違うのは、より多くの人が一緒に幸せを抱くことができるようになったこと……すべての人が互いに思いやり、互いを寛容に受け入れ、争いが見えなくなれば、幸せがやって来る」
台湾の人びとは、官民あげて、LGBTの人権尊重の姿勢、LGBTフレンドリーを、戦略的に台湾の「暖実力」(warm power)の一環として活用しようとしはじめている。パレードではレインボーに塗られた台湾の地図をあしらったフラッグを手に持つ参加があふれ、台湾アイデンティティとLGBTフレンドリーが深く結びついていることを印象づける。
日本植民地時代の1908年に公設市場として建てられ、西門町のシンボルともなっている紅楼(レッドハウス)裏のオープンスペース。ゲイバーやゲイショップがひしめき、週末ともなると多くのLGBTで賑わう。とくに今年のパレードの前後には、世界中から集まったLGBTやその仲間たちで、紅楼周辺はごった返した。
台湾は今では、「同志友善」(LGBTフレンドリー)であることを自他共に認めるようになり、「セクシュアリティの多様性」は多様なエスニックグループ、文化、言語などが共存する台湾に相応しい、「多元性」の象徴ともなっているのである。
■鈴木 賢
1960年北海道生まれ。明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。ゲイの当事者として1989年から札幌で活動を始める。レインボーマーチ札幌を創始。現在「自治体にパートナーシップ制度を求める会」世話人、北海道LGBTネットワーク顧問。