市民の力の結集――――婚姻平権太平台の発足

 2016年1月には総統と立法委員(国会議員)のW選挙が行われ、選挙期間中に婚姻平等支持を明確にしていた蔡英文が総統に当選、さらに蔡英文が主席を務める民進党が立法院で過半数の議席を獲得した。保守的な国民党から婚姻平等に好意的な民進党への完全な政権交代が起きたことで、にわかに実現への期待が膨らんだ。こうしたなか2016年3月にLGBT団体、女性団体が、尤美女立法委員のもとで、3ヵ条からなるシンプルな民法改正案を取りまとめた。核心となる971条の1は以下のように規定した。「異性ないし同性の婚姻当事者に、本法およびその他の法律が規定する夫婦、配偶者に関する規定を平等に適用する。異性ないし同性の配偶者に、本法およびその他の法律が規定する父母・子ども、親族の規定を平等に適用する。ただし、本法第1063条は異性の配偶者に限る」。

 ここに集まった諸団体、台湾同志諮詢熱線協会、台湾同志家庭権益促進会、婦女新知基金会、台湾同志人権法案遊説連盟、GagaOOLalaが、2016年11月に婚姻平権大平台という連合体(代表:呂欣潔、副代表:鄧筑媛)を組織した。同年12月10日には婚姻平等反対派に対抗して、総統府前広場で25万人を動員した大集会を成功させ、立法院における法案審議の促進を訴えた。大平台はこの集会に合わせて緊急にネットで募金を集めて、貸し切りバスを多量にチャーターし、中南部から多くの若者を参加させた。 2017年のレインボーマーチ札幌に参加する呂欣潔氏(右)、鄧筑媛氏(中央)

 また、連載第4回で紹介したように、大平台は法案審議、大法官の憲法解釈の前後、2017年11月の国民投票の前には、「婚姻平権小蜜蜂」(婚姻平等ミツバチ)を組織して、若いミツバチたちが街頭で市民に必至に支持を訴えた(写真6)。

婚姻平等大平台が作成したチャリティTシャツ。「私は婚姻平等を支持します」と中国語でプリント

 台湾最大の当事者中心のNGO、台湾同志諮詢熱線協会は現在、13名のフルタイムスタッフを雇用し、2019年7月27日に開催した第22回チャリティイベントでは、1日で約560万台湾元(2380万円相当)の募金(入場料、グッズ販売含む)を集めている。このように台湾の婚姻平等運動は、LGBTコミュニティ内外の若者への動員力、集金力、政治への影響力という点で日本の運動体をはるかにしのぐ。1986年、たった1人からはじまった婚姻平等化運動は、伴侶盟、大平台などの当事者を中心とするNGOによる立法、司法、社会への働きかけ、そして理解ある政治家の支持、協力により、ついに大法官を動かすことに成功したのである。

■鈴木 賢

1960年北海道生まれ。明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。ゲイの当事者として1989年から札幌で活動を始める。レインボーマーチ札幌を創始。現在「自治体にパートナーシップ制度を求める会」世話人、北海道LGBTネットワーク顧問。

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