アジアにおける人権の灯台に

 こうしてアジアで最初に同性婚法制化を成し遂げたことは、多くの台湾の人びとにとって大いに誇らしいことと受け止められた。同性婚の実現は、台湾がよって立つ基本的な価値である民主主義、自由、人権を象徴するできごとと考えられた。行政院が2月に法案を立法院に提出した際には、法案の順調な採択を願い、行政院長の蘇貞昌が、平等に同性間の婚姻自由を保護できる、互いの立場を尊重し合う国なろうと、映像を通じて肉声で国民に直接訴えかけるという場面もあった。
●蘇貞昌行政院長の訴え(動画)
 https://www.youtube.com/watch?v=2chnFoARno0

 対岸中国の官製メディアである『人民日報』(海外版)が、「中国の台湾はアジアで初めて同性婚を採択した」と報じたところ、外交部長(外相)がすぐさま記者会見で、「台湾は民主主義国であり、独裁の中国とはなんの関係もない」と声を荒げる場面があった。常に国際社会で中国にいじめられている台湾は、同性婚法制化では中国に先んじて実現したことを誇りに感じているのである。

 行政院から法案が立法院に出された直後の2019年2月23日、台湾外交部(外務省)の公式Twitterでは、次のような画像が流された。画像には、「権利の平等化に自信あり、世界と同時進行」(Marriage equality,proud of our part in global progress)との文字が添えられ、先進国とともにある台湾がアピールされている。台湾から生えたレインボーのハートマークが、日本を覆い隠して見えなくなっているのが、なんとも悲しいではないか。

 次回は同性婚法制化の方向を最終的に決定づけた、大法官748号解釈をテーマに取り上げたい。

2019年2月23日の台湾外交部の公式Twitterから流された画像。

■鈴木 賢
1960年北海道生まれ。明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。ゲイの当事者として1989年から札幌で活動を始める。レインボーマーチ札幌を創始。現在「自治体にパートナーシップ制度を求める会」世話人、北海道LGBTネットワーク顧問。
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