第748号解釈の注目点
748号解釈は日本で同性婚をいかに実現するかを考える上でも多くの示唆を与えてくれる。とくに以下の点が重要だと考える。
(1)これまでの当事者からの要請活動の歴史、立法部門での議論の十分な蓄積をふまえたうえで、当事者たちの重要な人権にかかわるテーマであることに鑑みて、これ以上違憲状態、差別を放置することは、司法機関として避けるべきであるとしている点。この点では、正直言って、日本における裁判を含む同性婚運動の歴史、国会での審議の蓄積につき、台湾に比べれば、まだ緒についたばかりという印象がある。
(2)アメリカ連邦最高裁Obergefell判決(2015年)からの顕著な影響が見られる。大法官解釈は、結婚する権利を基本権と位置づけ、さらにそれを承認しないことを平等条項違反の差別と認定するというObergefell判決の構成を踏襲している[*6]。また、脚注においてはObergefell判決を引用もしている。明らかにアメリカの判例が影響を与えているのである。他方、日本の裁判所ではこれほどダイレクトに外国の判決を参照することは稀である。また、「結婚する自由」を超えて、「結婚する権利」という法的構成をとることには批判もありえる[*7]ところであり、日本にそのまま持ってこられる議論かどうかは検討の余地があろう。
こうして第748号解釈の登場により、台湾における同性婚問題には最終的な決着が図られたかに見えた。しかし、この後、アンチ派による巻き返しのための国民投票が発動され、同性婚法制化は再度、危機に陥ることになる。次回は748号解釈後の国民投票をめぐる攻防について取り上げたい。
[*6]巻美矢紀「Obergefell判決と平等な尊厳」憲法研究第4号(2019年)103頁以下参照。
[*7]親密圏を形成するための法的枠組みとして、婚姻だけを過度に特権化することになりはしないかとの懸念がありうる。
1960年北海道生まれ。明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。ゲイの当事者として1989年から札幌で活動を始める。レインボーマーチ札幌を創始。現在「自治体にパートナーシップ制度を求める会」世話人、北海道LGBTネットワーク顧問。