アンチ派による大キャンペーン

 下福盟は巨額の資金を投じて「鋪天蓋地」と形容される徹底した大宣伝を展開し、アンチ派国民投票の成立を目指した。彼らが常用したスローガンは「婚姻家庭、全民決定」(婚姻や家族のことは、国民全体で決めるべき)であった。とくにテレビCMをいくつも製作、それを繰り返し放映することで、お茶の間にいるそれほど関心のなかった層への浸透を図った。

 とりわけインパクトの強かったCMは、「愛家影片 葬樹編」と題されたものである。家族にゲイであることをカムアウトして彼氏と同居するため家を出た息子が、AIDSを発症して実家に帰ってくる。両親に世話されながら、闘病するも、最後は息絶えてしまう。妹たちが樹の下に葬られた兄を毎年弔う。愛は自然がいい、「一夫一婦制の家族を救え、子どもにLGBT教育を受けさせるな、11月24日、愛家公投、10、11、12番に賛成票を投じましょう」とのフレーズで締めくくる。台湾のアンチ同性婚宣伝では、同性愛=HIV/AIDSの蔓延というメタファーが頻繁に動員され、同性愛やHIVについてよく知らない市民の恐怖心を煽る戦略がとられた。
●アンチ派のCM「愛家影片 葬樹編」
 https://www.youtube.com/watch?v=1HejZy9Fx-0

 テレビCMのほか、3つのアンチ国民投票への支持を訴える広告を車体全体に貼り付けた300両以上の路線バスが、台北の街中を走り回った。各新聞にも連日、広告が掲載され、アンチ派への投票を呼びかけた。

 このようにアンチ派には宣伝のために膨大な資金が流れ込んでいたことが分かる。台湾のキリスト教徒は人口の5〜6%と言われる。従って、国内だけでこれだけの資金を集めるのは困難と思われ、一説にはアメリカや香港など外国の同性婚阻止を目指すキリスト教福音派から資金提供がなされていたとされる。アンチ派の広告費は、同性婚推進派の10倍に相当する台湾ドルで1億元(約4億円)を超えていたとも言われる(苦労網)。ある国で同性婚が実現しそうになると、それを阻止しようと国境を越えてキリスト教関係の団体から資金が流れることがある。韓国にはすでにその兆しが見られるが、日本は果たしてどうであろうか。

 アンチ派が潤沢な資金源をもっていたことが、国民投票での票の獲得に大いに役だったことは間違いない。物量作戦は、かなりの程度功を奏し、多くの浮動票を反対へと導いたようである。大量のプロパガンダによって多くの中間派は、アンチ派に取り込まれたこととなる。世論は宣伝に左右されやすいということは日本にも当てはまるであろう。

国民投票による同性婚反対を呼びかける下福盟。@聯合報

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