審判の日  

 投票のもよう、開票結果を見届けるため、11月24日、私は再び台北にいた。朝から投票所になった地域の小学校には、投票する人で長い列ができた。国民投票は自治体の首長と議員の選挙と同日実施となった。台湾の選挙は日本と違う点がいろいろあって興味深い。国民投票アンチ派への支持を呼びかけ、投票先を指示したポケットティッシュや小さなチラシを配る人が、堂々と校門で有権者を待ち受けている。投票日も選挙運動をしているのである。

 投票は印刷された用紙に、判を押すのであるが、流れが悪くて、投票所には長蛇の列ができていた。2時間以上も並ばなければ投票できない投票所もざらにあったほどである。そのため投票締め切りの午後4時を過ぎても、まだ投票を終えていない人が小学校には溢れていた。列に並んでしまえば、何時になっても投票は可能で、私が投票を見に行った台北市万華区福星国民小学校では、あたりがすっかり暗くなって午後6時を過ぎてもまだ投票が続いていた。

 他方、同じ小学校でもすでに予定の有権者すべての投票を終えた教室では、4時を過ぎると開票が始まっている。開票のもようはだれでも見学ができ、選挙については一票一票読み上げて(唱票という)、黒板に正の字を書いていく。投票と開票が当時進行するのは、奇妙な感じがした。

投票所:投票のために列を作る有権者。台北福星国民小学校。

投票箱:国民投票の投票箱。台北福星国民小学校。

 国民投票の結果は24日の夜には判明した。同性婚推進派は以下のようにすべての項目で惨敗に終わった(票数は千以下を四捨五入)。

 投票内容   同意票   不同意票   投票率   結果 
10  民法婚姻を男女に限定   766万(72.5%)   291万(27.5%)   55.8%   ○ 
11  LGBT教育を実施すべきか   708万(76.4%)   342万(32.6%)   55.7%   ○ 
12  特別法による同性カップル保障   640万(61.1%)   407万(38.9%)   55.8%   ○ 
14  民法による同性婚   338万(32.7%)   695万(67.2%)   55.4%   × 
15  LGBT教育実施を法定   351万(34.0%)   681万(66.0%)   55.3%   × 

 アンチ派の⑩⑪⑫は、いずれも有権者数の1/4(約465万票)を大きく超えて、採択されたのに対して、推進派の⑭⑮は、いずれもこれを超えることはできず、非採択となった。とくに民法婚姻の規定は一男一女に限定すべきとする⑩で、賛成が766万票も得たことは、推進派に大きなショックを与えた。最近の世論調査では、同性婚に賛成する意見が過半数を超えるようになっていたことから、この結果は思いがけないものであった。

 こうして大法官解釈によって決着したかに見えた同性婚の可否が、一転、これで覆されてしまうのではないかとの不安が広がったのである。

失意の集会

 結果をどう受け止めてよいか戸惑う当事者たちは、この夜、ゲイの発展場として歴史的に名高い二二八公園に集まっていた。台湾同志諮詢熱線など、婚姻平等プラットフォームに参加したメンバーを中心に、100名ほどがどこからともなく集まった。時折すすり泣きすら漏れる沈痛な雰囲気のなか、この結果にめげることなく、婚姻平等の実現に向けて努力を続けることを誓い合う集会であった。

 3回にわたり同性婚法案を国会に提出するなど、台湾同性婚運動の政治部門における最大の貢献者、尤美女議員も駆けつけ、肩を落とす当事者たちを慰める姿もあった。

国民投票後の二二八公園での集会のもよう。

尤美女議員と筆者、二二八公園での集会にて。

1 2 3 4 5 6
< >

バックナンバー