膠着する法案審議
2016年末、立法院に提出された4つの法案が、統合されて、いよいよ決着が迫っていた。そうしたなか立法院の外では賛成、反対の両派が、大規模な街頭デモを繰り返した。11月13日、12月3日にはアンチ派「下一代幸福連盟」が、総統府前広場で「婚姻家族は全国民で決める前哨站」集会を開き、国民投票での決着を訴えた。対する賛成派は11月28日、12月10日に大規模な婚姻平等賛成集会を開いた。とくに後者の集会は「これ以上命を失わせない[*3]、婚姻平等のために立ち上がろう」と題し、約25万人が参加した。
このように法案をめぐって立法院の内外では賛成、反対の両派が鋭く対立し、膠着状態が続くなか、2017年2月20日、大法官が祁家威氏と台北市政府から出されていた憲法解釈要請を受理することを発表したのである(連載第3回参照)。
[*3]同性愛者への差別がこれまで多くの当事者を自殺に追い込んできたことをふまえ、これ以上命を失わせないことを訴えた。
●25万人が参加したとされる2016年12月10日(世界人権デー)に開催された婚姻平等支持派の集会のもよう。
https://www.youtube.com/watch?v=ziM3w6yC5u8
立法裁量論を回避できた背景
大法官が同性婚の実現を決定づけた「司法院第748号解釈」を出すことになった背景のひとつを、同性婚法案の審議の歴史を振り返ったのち、同解釈文では以下のように説明している。
「立法院で十余年の審議を経ているが、同性婚にかかわる法案の立法手続を完成させることができないでいる」。
「立法(ないし法改正)による決着がいつになるか見通せず、本件要請者の重要な基本権の保障にかかわることから、本院は憲法上の職責を尊重し、(中略)人民の基本的権利の保障および自由民主憲政秩序など憲法上の基本的価値の擁護の観点から、適時に拘束力のある司法判断を下すこととした」。
要するに、本来は政治部門が立法によって決着させるべき問題ではあるが、決着にいたる見通しが立たない。他方で、ことは人民の基本権にかかわる重要な人権課題であることを考慮して、敢えて大法官が司法解釈によって決着させることにしたというのである。2006年以降、立法院に同性婚を法定するための法案が、7つも繰り返して提案されてきたという歴史がなければ、748号解釈はあり得なかったのである。三権分立の原理にもとづき、立法機関の裁量に委ねるべき問題であるから判断を差し控えるとの口実(立法裁量論)を、司法に対して安易に与えないためには、2006年以降、立法機関で審議を積み重ねたという経緯が重要であったことがわかる。この点は日本でも参考にすべき経験であろう。
次回は台湾における婚姻平等化運動のレジェンド、祁家威氏個人にフォーカスし、その闘いの軌跡を跡づけてみたい。
■鈴木 賢
1960年北海道生まれ。明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。ゲイの当事者として1989年から札幌で活動を始める。レインボーマーチ札幌を創始。現在「自治体にパートナーシップ制度を求める会」世話人、北海道LGBTネットワーク顧問。