2度目の憲法解釈要請

 2008年には民法が改正されて、婚姻の成立要件が儀式から役所での登録制に変更された。2012年に台北の戸政事務所でゲイのカップル、陳敬学と高治瑋による婚姻届が受理されず、ふたりは行政訴願(不服審査)を経て、行政訴訟を提起した。しかし、彼らは家族などからのプレッシャーに堪えきれず、結局、訴えの取り下げをやむなくされてしまう。そこで祁氏が再び、矢面に立つこととなる。20133月に台北市万華戸政事務所で婚姻登録を申請するが、同性婚は現行民法の規定に符合しないとの理由で、登録を拒否されてしまう。その後、台北市政府に対して不服審査を申し立て、そこでも退けられると、今度は行政訴訟を提起する。第1審の台北高等行政法院、控訴審(最終審)の最高行政法院は、いずれも民法婚姻の定義に符合しないとの理由で請求を退け、祁氏の敗訴が確定する。

 ここで祁氏は再び大法官への憲法解釈申請の資格を得た。今度は初めて台湾伴侶権益推動連盟の弁護士たちの支援を受けることとし、201412月に司法院前で記者会見を開き、憲法解釈申請をすることを発表した。弁護団は同性婚に関する憲法解釈申請を受理するよう司法院に求め、婚姻の自由を剥奪された台湾のLGBTのために、LGBTに対する制度的差別を解消し、同性カップルの平等な市民としての地位を回復すべきであると訴えた。2015820日、七夕(台湾ではバレンタインデー)に合わせて司法院に正式な申請手続が行われた。結局、これが2017524日の第748号解釈を引き出し、婚姻平等の実現を決定づけることとなった。

台湾伴侶権益推動連盟のチャリティパーティに参加する祁家威氏(2018年5月18日)。

 

口頭弁論での魂の叫び

 これ以後の経緯については本連載第3で書いた通りである。大法官会議は祁氏と台北市政府からの要請を受けて、憲法解釈を行うこととし、2017324日には異例の口頭弁論を開いた。この場で祁氏にも解釈申請をした当事者として、弁論の機会を与えられた。そこで祁氏は以下のような心に響く魂の叫びともとれる弁論を行った。

 「私はこの日の到来を426カ月21日間待っていた」。
 「同性愛者は医学的に正常であり、真っ当な人間とされる。結婚は真っ当なことである。真っ当な人間が真っ当なことをするのがどうして許されないのか」。
 「特別法の制定は同性愛者を二級市民扱いするものです。不平等な待遇を与えるものです。婚姻法こそ真に平等な扱いになる」。
 「先にパートナーシップ法を制定し、その後、婚姻法へと進んだ国はあるが、婚姻法からパートナーシップ法へと戻った国はない」。

 またメディアからのインタビューで、祁氏は以下のようにも述べている。
 「誰もひとりの人間が幸福を追求しようとすることに反対したり、LGBTが結婚することに反対する資格などない」(『新頭殻new talk2014124日)。これは信念の人、祁家威がたどり着いた結論と言ってよかろう。同性間の婚姻に反対する人たちは、これにいったいどう反論するのであろうか。

 祁氏があくまで婚姻を求め、パートナーシップ法に反対した理由は、パートナーシップ制度は婚姻からの「減権」(権利を差し引いたもの)に他ならないからである。たとえば、配偶者ならば生前贈与が許されるし、死後の相続税にも優遇があるが、パートナーシップではそうはいかないであろう。もしそうならば、LGBTを二級市民と見なすことになるし、それは差別に他ならない(『自由時報』2017324日)。

 筆者からのインタビューで、祁氏は婚姻よりも多くの権利を付与する形、すなわち「加権」ならば、受け入れることができると話してくれた。パートナーシップ法は先住民族に特化した法とは違って、権利を加えるものではない。たとえば、婚姻成立の時点を自治体での同性伴侶註記(「パートナーシップ宣誓」に相当)手続をした日まで遡及させるなどの特別措置を加えるなど、何か付加するものがあるなら別だという。

 祁氏がなぜ40年以上にもわたって婚姻平等を求め続けてきたか。それは婚姻のもつ社会的承認機能、言い換えればスティグマ除去作用こそが動機の核心であったことがわかる。彼は何度も自分が結婚したいから運動を続けてきたわけではないと語り、婚姻平等法が施行された今も実際、彼はまだ結婚していない(パートナーが外国籍で現在のところ法的に結婚ができない)。次世代のLGBTが誇りをもって生きられる世の中にしたいという思い(「前人種樹、後人乗涼」という)がそこにはある。

1 2 3 4
< >

バックナンバー