総統からの表彰

 祁氏は長年の同志運動における貢献が認められ、大法官第748号解釈が出された後、201710月、蔡英文総統から第9回総統文化賞社会改革賞を授与された。同時に賞金として100万台湾元(約350万円相当)が贈られた。同賞は総統府のもとに設置された中華文化総会が主催し、2001年から毎年、授与されている。なかでも社会改革賞は「長年、社会改革に尽力し、社会の進歩的価値の提唱、解決方法の提起などにより、台湾社会の発展に多大な貢献を行った者」に贈られる。台湾の政治権力は、祁氏のやったことをそのように評価しているのである。

蔡英文総統から「総統文化賞」を授与される祁家威氏(2017年10月17日)@中央社

司法院釈字第748号解釈施行法の採択後、蔡英文総統からは祁氏に対してもうひとつ粋なプレゼントが贈られている。同法は立法院の第三読会を通過し、採択された後、522日、蔡総統が署名し、正式に公布された。その署名の際に使った万年筆が、手書きのメモとともに祁氏に贈呈された。蔡総統のメモには以下のように記されていた。

 「家威さん、私はこのペンで司法院釈字第748号解釈施行法にサインしました。どうか記念にお収めください。この土地の上の各人が、みな団結することを祈って。蔡英文。2019.5.22

 そしてこのペンは524日の法施行の当日、連載第1回目で紹介した信義戸政事務所における集団での婚姻届提出の際に、祁氏が証人となったカップルの婚姻届のサインでも使われたという。この記念のペンは、台湾婚姻平等化のパイオニア、祁家威氏こそがその持ち主に相応しい。蔡英文総統はそう考えたのであろう。

蔡英文総統から祁家威氏に送られた万年筆とメモ@台湾同志諮詢熱線協会

蔡英文総統から祁家威氏に送られた万年筆とメモ@台湾同志諮詢熱線協会

 

 

ひとりから25万人へ

 このように祁家威氏の同性婚を求める40年を超える長い旅は、たったひとりから始まった。この間、司法、立法、行政の各機関に対して、飽くことなく要請活動を繰り返した。しかも、その前半の30年間、組織的な賛同者はほとんどなく、孤独に闘い続けた(「単打独闘」という)ことになる。彼の闘いの歴史は、大法官第748号解釈の解釈文でも言及された。

 連載第5で紹介した20161210日、総統府前広場で行われた婚姻平等プラットフォームが主催した集会には、約25万人(主催者発表)の人が集まった。これが台湾の婚姻平等化運動において推進派が最多の参加者を動員したイベントとなった。この集会でも祁氏は最も高いところに立って、ゆっくりレインボーフラッグを振り続けていた。ひとりで始めた運動の後ろに、なんと25万人もの若者が続いてくれたことを、彼はどんな思いで見ていたことであろう。

 次回は、予定を変更して、来る10月26日に婚姻平等法制化以後、はじめて台北で開催される第17回台湾LGBTパレードおよびその前後に行われるイベントの模様をお伝えする。

■鈴木 賢
1960年北海道生まれ。明治大学法学部教授、北海道大学名誉教授。ゲイの当事者として1989年から札幌で活動を始める。レインボーマーチ札幌を創始。現在「自治体にパートナーシップ制度を求める会」世話人、北海道LGBTネットワーク顧問。

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