審議は行政院の法案をベースに逐条的に行われた。12時16分に第1条の法の目的規定である「司法院釈字第748号解釈を施行するために本法を制定する」という条項が採択されたのを皮切りに、最後の第27条が15時13分に採択され、同性婚法は成立した。各条項の採択に先立って賛成、反対の双方の立法委員からは熱のこもった討議が行われた。印象的だったのは、核心的な条項である第4条「戸政機関において結婚登録を行うことができる」との文言をめぐって、時代力量の林昶佐委員から「愛する人と自由に結婚できる台湾にしたくはないですか」「国民党は国民投票の意味を歪曲し、何十年も権利を奪われてきた人たちをバカにし、党利党略に走っている」と国民党議員に対して力強く最後の説得がなされた。臨場感あふれる審議のもようはライブで全世界にネット中継され、歴史に残る演説は今もネット上で視聴することができる。
●時代力量の林昶佐委員による歴史に残る演説のもよう(動画)
https://www.youtube.com/watch?v=nh8-oyHnkG4
本法の採決にあたって興味深かったのは、同性婚法を推進した民進党からも、また同性婚を阻止しようと最後まで強く抵抗した国民党からも、それぞれ造反議員が出たことである。例えば、この法律によって成立する同性間の関係が「結婚」であることを明確に示すことになった第4条の採決では、賛成66票、反対27票、棄権20票で採択となった。早くから国民党で唯一明確に賛成を表明していた許毓仁委員ほか、国民党からも合計7名が賛成票を投じた。他方、独自の同性ユニオン法案を提出していた民進党籍の林岱樺委員は反対に回っている。民進党の選挙区選出[*2]の立法委員には、それぞれの地元支持者から反対のプレッシャーもあったので、党内には一致団結して投票するよう(「団進団出」)呼びかけがなされた。しかし、相当数の棄権者を出してしまった。同性婚認否の問題が、イデオロギーや他の政治課題とは必ずしも連動しない異質なテーマであることが分かる。
法案採択の知らせを立法院の外で聞いた賛成派の若者たちは、一斉に歓喜の声を上げ、抱き合って涙にくれた。なぜかその頃には朝からの雨もあがり、まるで婚姻平等化の実現を祝うかのように、空には虹がかかっていたという。こうして台湾は婚姻平等化運動の最終ハードルを越えたのである。
[*2]台湾の立法委員選挙は選挙区と比例代表から選出されるが、比例の議員に比して選挙民と直接、接する機会が多い選挙区選出議員は、より民意のプレッシャーが重くのしかかり、賛成票を投じることを躊躇する傾向があった。最後まで同性婚に対する社会の理解が必ずしも広がっていたわけではない。