異例の公開口頭弁論
折しも選挙運動中に同性婚支持を表明していた野党民進党の蔡英文が、2016年1月、総統選挙で当選、立法委員(国会議員)選挙でも民進党がはじめて過半数の議席を得て、完全な政権交代が実現した。同年11月には蔡英文総統の指名を受けて、許宗力院長を含む7名の大法官が交代した。結局、こうした政治構造の変動が大法官会議の対応を大きく変えることとなった。大法官会議は2017年2月20日、正式に同性婚をめぐる憲法解釈案を受理し、3月24日に口頭弁論廷を開くことを発表する。
大法官会議が口頭弁論廷を開くのは、それまでわずか9例しかなく、この問題が社会的関心の高いテーマであり、解釈を示す前提として、十分論議を尽くす必要があるとの認識にもとづくものと想像される。口頭弁論のもようはインターネットを通じて生中継され、全国民が固唾をのんで見守った。口頭弁論で議論すべき論点は、以下のように4点示された。
①民法第4編親族第2章の婚姻の規定は、同性カップルの結婚を許しているかどうか。
②仮に①がNOだとすれば、憲法第22条が保障する婚姻の自由の規定に反しないかどうか。
③仮に①がNOだとすれば、憲法第7条が保障する平等権の保障の趣旨に反しないかどうか。
④立法によって婚姻とは異なる制度(例えば、同性パートナーシップ制度)を設けるとすれば、憲法第7条、22条に反しないかどうか。
口頭弁論には憲法解釈申請の当事者として、台北市政府(廖元豪政治大学副教授が代理)、祁家威氏およびその弁護人(許秀雯弁護士など)、法務部長(邱太三)、内政部戸政司長、台北市万華戸政事務所の代表者が出席し、意見を陳述した。祁氏が同性間の婚姻を求めるのは、「正しいことを主張しているだけだ」と述べたのが印象的だった。法務部長は同性間の婚姻を規定しないことは違憲ではないとの意見を陳述し、戸政司長、戸政事務所は法務部の意見を尊重するとした。さらに6名の法学者が専門家鑑定人として招聘され、意見を陳述し、大法官からの質問に答えた。
鑑定人のうち、張文貞(台湾大学教授)、陳恵馨(政治大学教授)、劉宏恩(政治大学副教授)の3人が違憲説、李恵宗(中興大学教授)、陳愛娥(台北大学副教授)の2人が合憲説の立場を表明し、家族法の専門家である鄧学仁(中央警察大学教授)は憲法適合性については明確な意見を述べなかった。
約4時間におよぶ賛成、反対両派の意見陳述、大法官と解釈申請者、関係機関、鑑定人との緊張感あふれる質疑の模様は、以下から見ることができる。すべて中国語のやりとりであるが、同性婚を認めないことの憲法適合性にかかわる論点が網羅的に論じられている。
●https://www.youtube.com/watch?v=lcJbz1ibLSU