待ちに待った結婚届
去る2019年5月24日午前8時、私は台北市中正戸政事務所へ向かった。この日から台湾全域で司法院釈字第748号解釈施行法(いわゆる同性婚法)にもとづいて、性別が同一の両当事者間でも結婚の登録が受け付けられるのを、この目に焼き付けるためである。台湾で戸籍事務を扱う自治体の各戸政事務所には、朝8時にはすでに当事者やその支援者、家族、マスコミ関係者などが、大勢集まっていた。
台北市の中心部にある中正戸政事務所は、婚姻平等化運動の先頭にたってこの運動を率いてきたレズビアンの許秀雯弁護士らが、2014年に30組の同性カップルとともに結婚登録をしようと試みた因縁の場所であった。その時には彼女らの届出は受理されることはなかったが、いまこその無念を晴らそうと、彼女とそのパートナー、簡至潔さんのカップル、男性カップルの邱亮士さんと曹朝郷さん、台湾伴侶権益推動連盟(以下、伴侶盟と略。)のこのふた組の同性カップルは、敢えてこの日、この中正戸政事務所を選んで結婚届を出すこととしたのである。そこにはまさに「重返中正戸政、完成同婚登記」(中正戸政事務所へ舞い戻り、同性間の結婚届を完遂する)との思いが込められていた。
中正戸政事務所のフロアーが大勢の人でごったがえすなか、8時半くらいから戸籍の受付窓口が開いた。同性カップルが届出の窓口の前に座って、必要書類を戸籍担当者に渡して、登録を待った。担当者は異性間の結婚届を受け付ける時と同じように、慣れた手つきでパソコンのキーボードをたたき、新しい国民身分証を作成して、その場でふたりに手渡した。台湾の国民身分証(国が発行するIDカード)の裏には、両親の氏名、そして配偶者の氏名を印字する欄がある。同性のパートナーをもつ人の身分証には、これまでけっして書かれることのなかったパートナーの氏名が、それぞれのカードの配偶者欄にくっきりと印字された瞬間であった。こうしてものの30分で新婚の「妻妻」「夫夫」(ふうふ)が次々と誕生した。この間、台湾同性婚運動のパイオニア、祁家威氏が1986年に男性間の結婚をもとめて裁判所に公証を求めてから33年、多様な家族の法的承認に取り組む伴侶盟が2009年に誕生してから数えても、10年の月日が流れていた。2019年5月24日、台湾のLGBTが待ち望んだ歓喜の日を迎えたのである。